安倍内閣に真っ向勝負な話
元文部科学省事務次官の前川氏が、若い女性の貧困を調査するために出会い系バーに出入りしていた件で、安倍内閣から攻撃を受けている。前川氏の行為を非難する意見が大勢を占めているようだが、前川氏の言い訳を、考察してみよう。僕は、個人的には前川氏に頑張ってほしいと思っているが、この考察は単なる知的ゲームだ。若い女性の貧困を調査したいという釈明は筋が通るか?
さて、人によっては職業として、貧困の研究をしているかもしれない。でも官僚がそれを調査したいというのは、ちょっと違和感がある。しかしながら、前川氏は退職後に夜学の臨時教員のボランティアをしていたという話がある。そのエピソードを鑑みると、学校教育からドロップアウトした人たちのケアについて興味を持っていたことがうかがえる。教育行政のトップが、自らの教育行政の失敗の産物であるドロップアウトした人に興味を持つのは、悪いことではない。自分の仕事に誇りを持つために、自分の仕事の限界を知り、その限界を乗り越える努力をする。こういうことができる人は少数だ。でも、それを続ける人だけが、トップランナーとなることができる。それを前川氏は実践しようとしていたのかもしれない。
あるいは、現在の教育行政ではドロップアウトした人たちのケアがどうしてもおろそかになる現状を、行政組織のトップですらどうしようもない現実に直面し、自ら行動を起こすべきだ、と考えたのかもしれない。
それが出会い系バーに出入りすることを正当化するには、まだまだ説明が必要だろう。
ドロップアウト後の人生
さて、高校中退した人が辿る人生をご存じだろうか?僕も、資料を読み解く程度でしか知らないが、それでもいろいろなことが見えてくる。およそ2.5%の人が高校を中退すると言われている。最近は減少傾向らしい。人数でいうとおよそ5万5千人。高校を中退すると、ほとんどの人は定時制あるいは通信制の高校などに再入学するそうだ。そして、それらの高校で卒業にこぎつけるのはおよそ50%と言われている。
それらの高校をドロップアウトした人のうち、そこそこ勉強ができる場合は、高卒認定試験を受験する。高卒認定試験は年2回あり、重複もあるが、年間のべ2万6千人受験している。先の定時制・通信制高校の卒業率を勘案すると、定時制・通信制高校を卒業しなかったほとんどの人が高卒認定試験を受験していると考えてよいだろう。
高卒認定試験の合格率は30~40%ということなので、逆算すると、およそ1%の人は完全に高校中退となる。
1%というのは年間1万人以上の人が高校中退になっていることを意味する。高校中退だと、いろんな職業に就く機会が奪われるということ以上に、人生に希望を持てなくなることが問題だろう。親族からの経済的支援が得られない場合は、自暴自棄になる可能性も高い。特に若い女性は賃金が著しく低いので、簡単に貧困に陥る。もっともひどいのは、沖縄だと言われている。沖縄ルポがあるので、それを参考にされたい。
簡単に言うと、沖縄では貧困のために、若い女性が非常に安い料金で売春をしている。彼女らは、望んでか望まずにかわからないが、10代で妊娠し出産する。貧困なので、子育てが満足にできず、ネグレクト気味で子供が育つ。貧困家庭なので進学できず、かといって仕事もない。女の子の場合は、簡単に売春に行きつく。そうして貧困が連鎖する。
沖縄ほどではないにしても、出会い系バーというのは、かなり近いのかもしれない。文部科学省が指導監督する教育行政のエラーを実地調査するには、格好の題材と言えなくもない。
貧困の連鎖を断ち切るにはどうしたらよいか?
沖縄のルポにあるようなひどい悪循環の直接の原因は貧困だが、貧困によって若い女性が性産業に流れる、というリンクがあることに気づく。このリンクは、「貧困」以外に、「若い女性」と「性産業」がキーワードになっており、これら3つの要素のいずれが欠けても成立しないはずだ。3つの要素の連携を破壊するには、それぞれの要素をやっつけるという方法が単純だが、「貧困」の撲滅は難しいし、「若い女性」は撲滅できない。また、違法な「性産業」は犯罪で取り締まられているにもかかわらずなくならないし、違法でない「性産業」も多数存在する。だから「性産業」を撲滅することも現実的ではない。別の方法として、それぞれのキーワードの連携を崩す、ということが考えられる。例えば、「貧困に苦しむ若い女性」と「性産業」とのリンクを断ち切れればどうだろう。「性産業」以外の選択肢があれば、事態は改善するかもしれない。
実際のところ、この方針を実際に行っていたというルポが週刊文春に掲載されたらしい。その後、フラッシュは週刊文春を裏付けるような記事を掲載しているらしい。ただし、夕刊フジは別の記事を書いている。夕刊フジは、前川氏を貶める方向での論説を掲載しているらしい。
写真週刊誌と夕刊紙のどちらを信用するかというと、難しい問題だが、夕刊フジの記事は、出かけてその場の人に声をかけてすぐ書ける内容であるのに対し、フラッシュは前川氏を知る人物を店の中で尋ねて回らないと書けない内容である。ということは、フラッシュの記事の方が手間がかかっているということだ。文春の記事はさらに多くの取材が必要なので、取材量を目安に考えれば、文春>>フラッシュ>フジということになる。前川氏が、「貧困に苦しむ若い女性」と「性産業」のリンクを断ち切る活動を実践していた可能性は高いが、伝聞に基づいて判断するのはよくない。
ただ、そのリンクは決定打にはならない。キャバクラなどは「性産業に携わる若い女性」と「貧困」が形式的にはつながっていない。その結果、合法的なキャバクラは隆盛を極め、あまり健全ではない発達を遂げている。3つのキーワードのリンクを不用意に切ったりつなげたりすると、好ましくない結果につながる可能性がある。
好ましい結果につなげるためには、実態を注意深く調査することが欠かせないのは道理だ。出会い系バーは沖縄とは違って、貧困とは関係のない話なのかもしれない。でも、すくなくとも、現行の教育システムの何らかのエラーが、若い女性と性産業を安易に結び付けているのは間違いない。
システム管理者がエラーの原因究明をするというのは当然だ。だから、文部科学省として調査すべきだと思うかもしれない。文部科学省にはいろんな事案について個別に調査研究するセクションがある。しかし、「出会い系バーの調査」を企画しそれを実行できるかというとかなり難しいだろう。というのも、調査においてリスクが高すぎるからだ。同じ理由で部下にそれを命令することもはばかられる。自分で調査すべきだ、と結論するかもしれない。
調査目的で出会い系バーに出入りするという証明
前川氏は頭の良い人のはずなので、遊び目的で出会い系バーに出入りするなんてことはしないはずだ。ガチの調査をしていた場合には会話音声などの記録があるはずだ。優秀な官僚は自分の行動を日記に書き残す習慣を持っている。ガチの調査でなくとも、日記には記述があるはずだ。前川氏はいくらでも反論できるはずだが、積極的に反論していない。いつでもひっくり返せるということかもしれないし、あるいは関係者(取材対象)に迷惑をかけることを嫌っているのかもしれない。文春の記事によれば、その可能性がもっとも高いことになる。官僚のトップが、時の政権と喧嘩すると腹をくくったということは、確実に勝てるだけの材料をがっちり持っているはずだ。ちょっと楽しみではある。
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