西川式:微分方程式と線形応答
ずいぶん昔に、学生向けにテキストを書いていました。大学院でも似た内容の講義をするので、Web版を作ったら、みんな読めるかな?ちょっと長いので、連載形式にして、章ごとに公開します。今回はプレビューというか、予告編というか、そんな程度です。はじめに
大学で学ぶ数学・物理において、微分方程式は極めて重要です。しかしながら、なかなか理解するのが大変で、微分方程式が解けるかどうかというのが、学生にとって一つの関門になっています。僕自身も長年納得がいかず、大変苦労しました。ただ、その苦労の大半は、ちゃんとした説明があれば、必要ないものでした。だから、テキストにまとめることによって、多くの人が僕のような苦労をせずに済むようにしたいと思っています。このテキストは、大学で学ぶ微分方程式の講義についていけなかった人、疑問だらけで納得がいかない人、そういった落ちこぼれチックな人のためのものです。微分方程式なんて、チャラいよ~、という人は読む必要はありません。きっと頭がすごく良いのでしょう。微分方程式の解法は数学者たちが1000年かかって作り上げてきた人類の至宝です。その極意をたった1年かそこらで理解できる超天才に僕が教えることなどないでしょう。
それから、一旦、他の教科書や講義で微分方程式を学んでおいてください。僕のテキストは微分方程式を学ぶ中で生じる違和感を共有しているという前提で書かれています。その違和感を持っていないと、面白さがわからないかもしれません。
できない子の論理
微分方程式を解く場合、天下り式に一般解というのを代入してみて、一般解に付随している係数を決める、ということを行います。このとき、いくつかの疑問が発生します。(疑問1)一般解というのはどういう理由で導入されるのか?
(疑問2)一般解以外の解は存在しないのか?
あとでも詳しく例示しますが、
\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} y = -a^2 y
\end{equation}
のとき、$y=\sin{bx}$とおいて、$a$と$b$の関係を求めます。(疑問1)はなぜ$y=\sin{bx}$とおくという発想に至るのか?という疑問です。そして(疑問2)は$y=\sin{bx}$ではなくて、$y=\cos{bx}$とか、$y=\log{bx}$ではだめなのか?という疑問です。
こうした疑問はまず間違いなく講義では説明されません。確かに、一般解を用いて求められた解は与えられた条件を満たすため、元の微分方程式の解であるわけで、結果オーライなのだから、最初に与えた一般解というのは成功だった、と因果律をさかのぼって、天下りの一般解が正当化されます。
また、いくつかの微分方程式のパターンを学ぶにつれ、微分方程式に応じて適切な一般解を選択せねばならないということがわかってきます。そうすると、次の疑問が浮かびます。
(疑問3)一般解をどのように選択すればよいのか?
先に述べたように、微分方程式の解法では、結果(解)が仮定(一般解)を正当化するので、(疑問3:一般解をどのように選択すればよいのか?)は説明する必要がない、という立場をとります。しかしながら、それは乱暴であるように思います。結果が仮定を正当化するということは、言い換えると、一般解は必要条件(解が求まる)を満たすということは納得できるが、十分条件(他の可能性が排除される)は満たしていない気がします。十分条件を満たしているよ、という説明がない限り、納得できません。
落ちこぼれ脱出作戦
僕はこれらの疑問はまっとうだと思っています。そういう疑問を置き去りにして、形式だけを学ぶという、通常の講義スタイルこそダメだと思っています。同じことは多かれ少なかれ量子力学にも言えます。量子力学の出発式は微分方程式であり、微分方程式こそが自然の本質であるというのが量子力学の真骨頂です。ですから、微分方程式の理解と量子力学の理解のレベルは直結しており、どちらも今一つ得心がいかないという状況が似ているのは当然かもしれません。そういうことなので、微分方程式や量子力学が理解できない、というのは決して恥ではなく、むしろ、現在の講義スタイルで理解できたと思っている人の大半は、理解できていないことすら理解できていないという救い難い状況だと思っています。だから、このテキストをここまで読んできた人には、ご褒美をあげたいと思いますが、そのご褒美は、テキストを進むうちにもらえます。
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