2018年4月8日日曜日

西川式微分方程式5章


ラプラス変換

微分方程式を解くなら、フーリエ変換よりラプラス変換の方が、応用が利いて便利かもしれません。フーリエ変換を微分方程式の解法に利用するときに重要だったのは、2点ありました。一つは、1対1に対応する逆変換が存在すること、もう一つは、微分が機械的に表現できることでした。その二つの条件を満たすものに、ラプラス変換があります。したがって、ラプラス変換も、微分方程式を解くのに使えます。

ラプラス変換の定義

ラプラス変換はフーリエ変換にとっても似ています。
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[f\left(t\right)\right]=\int_{0}^{\infty}{f\left(t\right)e^{-st}dt}
\label{5-1}
\end{equation}
もし$s$が$i\omega$なら、フーリエ変換とほとんど同じです。$s$や$\omega$は任意に定義できるので、実はこの部分に本質的な違いはありません。フーリエ変換とラプラス変換の最大の違いは積分区間が0から始まることです。これは、物理的にとても重要なことです。通常の物理現象ではきっかけ(作用)があって、イベントが生じる(反作用)という因果律があります。積分区間の下限が0であるというのは、きっかけの前($t\lt 0$)は不問にするという因果律を表現します。そのため、フーリエ変換が基本的に定常状態を扱うのに対し、ラプラス変換は過渡現象もうまく扱えます。その代り、逆変換はかなり複雑になります。
\begin{equation}
f\left(t\right)=\mathcal{L}^{-1}\left[F\left(s\right)\right]= \lim_{p\rightarrow\infty}{\frac{1}{2\pi i}\int_{c-ip}^{c+ip}{F\left(s\right)e^{st}ds}}
\end{equation}
この積分を実行するのはかなり難しいです。$c=0$とすると逆フーリエ変換に一致しますが、特異点の問題があって、$c=0$と決め打ちできません。 ($\ref{5-1}$)式にあるように、ラプラス変換はフーリエ変換の半分の情報しかありません。だから、まともな方法では逆変換が出てこないのです。逆変換の背景には、実関数のフーリエスペクトルの実部と虚部は独立ではない、というKramers-Kronigの関係があります。それはつまり、因果律の存在を意味していることを4章で議論しました。その因果律は積分区間が0から始まるとして、ラプラス変換に取り込まれています。そうした物理的影響は別の部分にも表れています。例えば、ラプラス変換では、$f\left(t\right)$は実関数であるという制約がつきます。この制約は通常の物理現象を取り扱う上では全く問題ありません。いや、むしろ都合が良いとすらいえます。

単純な関数のラプラス変換

ラプラス変換の良いところは、($\ref{5-1}$)式の定積分が比較的簡単だ、ということです。というのは、$\lim_{t\rightarrow\infty}{e^{-st}}=0$、$\lim_{t\rightarrow0}{e^{-st}}=1$なので、($\ref{5-1}$)式が振動しないことが多いのです。実際に計算してみましょう。
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[1\right]=\int_{0}^{\infty}{e^{-st}dt}=\left[-\frac{1}{s}e^{-st}\right]_0^\infty=-\frac{1}{s}0+\frac{1}{s}1=\frac{1}{s}
\label{5-3}
\end{equation}
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[t\right]=\int_{0}^{\infty}{te^{-st}dt}=\left[-\frac{1}{s}{te}^{-st}\right]_0^\infty+\int_{0}^{\infty}{\frac{1}{s}e^{-st}dt}\\
=-\frac{1}{s}\infty\bullet0+\frac{1}{s}0\bullet1+\frac{1}{s}\bullet\frac{1}{s}=\frac{1}{s^2}
\end{equation}
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[t^2\right]=\int_{0}^{\infty}{t^2e^{-st}dt}=\left[\frac{1}{s}-{t^2e}^{-st}\right]_0^\infty+\frac{1}{s}\int_{0}^{\infty}{{2te}^{-st}dt}\\
=-\frac{1}{s}\infty\bullet0+\frac{1}{s}0\bullet1+\frac{2}{s}\bullet\frac{1}{s^2}=\frac{2}{s^3}
\end{equation}
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[t^n\right]=\frac{n}{s}\mathcal{L}\left[t^{n-1}\right]=\frac{n!}{s^{n+1}}
\end{equation}
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[e^{-at}\right]=\int_{0}^{\infty}{e^{-\left(a+s\right)t}dt}=\left[-\frac{1}{s+a}e^{-st}\right]_0^\infty\\
=-\frac{1}{s+a}0+\frac{1}{s+a}1=\frac{1}{s+a}
\end{equation}
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[cos{at}\right]=\int_{0}^{\infty}{\frac{e^{iat}+e^{-iat}}{2}e^{-st}dt}=\frac{1}{2}\int_{0}^{\infty}\left\{e^{-i\left(s-ia\right)t}+e^{-i\left(s-ia\right)t}\right\}dt\\
=\frac{1}{2}\left\{\frac{1}{s-ia}+\frac{1}{s+ia}\right\}=\frac{1}{2}\frac{s+ia+s-ia}{\left(s-ia\right)\left(s+ia\right)}=\frac{s}{s^2+a^2}
\end{equation}
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[sin{at}\right]=\int_{0}^{\infty}{\frac{e^{iat}-e^{-iat}}{2i}e^{-st}dt}
=\frac{1}{2i}\int_{0}^{\infty}\left\{e^{-i\left(s-ia\right)t}-e^{-i\left(s-ia\right)t}\right\}dt\\
=\frac{1}{2i}\left\{\frac{1}{s-ia}-\frac{1}{s+ia}\right\}=\frac{1}{2i}\frac{s+ia-s+ia}{\left(s-ia\right)\left(s+ia\right)}=\frac{a}{s^2+a^2}
\label{5-9}
\end{equation}
前述のように逆変換は簡単ではありません。しかし、1対1対応があるのはわかっているので、 ($\ref{5-3}$)~($\ref{5-9}$)の計算を表にしておいて、逆変換を辞書引きする方法が一般的です。

ラプラス変換の微分方程式への応用

ラプラス変換を微分方程式に応用するには、もう一つの条件、微分が機械的に表現できること、が必要です。そこで、フーリエ変換と同じように考えて、
\begin{equation}
\frac{d}{dt}f\left(t\right)=\lim_{p\rightarrow\infty}{\frac{1}{2\pi i}\int_{c-ip}^{c+ip}{\frac{d}{dt}F\left(s\right)e^{st}}ds}\\
=\lim_{p\rightarrow\infty}{\frac{1}{2\pi i}\int_{c-ip}^{c+ip}{sF\left(s\right)e^{st}}ds}=\mathcal{L}^{-1}\left[sF\left(s\right)\right]
\end{equation}
という定理が得られます。フーリエ変換の時と似ています。

では、懐かしの例題1を解いてみましょう。
\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2}f\left(x\right)=-a^2f\left(x\right)
\label{5-11}
\end{equation}
でしたので、両辺をラプラス変換します。
\begin{equation}
s^2F\left(s\right)=-a^sF\left(s\right)+C
\end{equation}
積分定数$C$をつけておきます。移項して、
\begin{equation}
F\left(s\right)=\frac{C}{s^2+a^2}
\end{equation}
となるので、($\ref{5-9}$)式によって、
\begin{equation}
f\left(x\right)=C\sin{ax}
\end{equation}
となります。cosineのバージョンの解が表れてきません。実は、この解き方では初期値として$f\left(0\right)=0$が暗黙のうちに指定されています。それは、積分定数を$+C$と置いたことに由来します。

ラプラス変換では、初期値定理と最終値定理というのがあります。
\begin{equation}
\lim_{s\rightarrow\infty}{sF\left(s\right)}=\lim_{t\rightarrow0}{f\left(t\right)}
\label{5-15}
\end{equation}
\begin{equation}
\lim_{s\rightarrow0}{sF\left(s\right)}=\lim_{t\rightarrow\infty}{f\left(t\right)}
\end{equation}
これは、Percevalの公式に相当するものです。今の場合、積分定数$C$を加えたところ、
\begin{equation}
\lim_{s\rightarrow\infty}{\frac{Cs}{s^2+a^2}}=0
\end{equation}
なので、$f\left(0\right)=0$ということです。
逆に、($\ref{5-15}$)式から、
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[f^\prime\left(x\right)\right]=sF\left(s\right)-f\left(0\right)
\label{5-18}
\end{equation}
ということができます。$s\rightarrow 0$で右辺が0になるように調整する、ということです。これが初期値を含んだラプラス変換になります。ここから、
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[f^{\prime\prime}\left(x\right)\right]=s^2F\left(s\right)-sf\left(0\right)-f^\prime\left(0\right)
\label{5-19}
\end{equation}
も導かれます。$\mathcal{L}\left[f^{\prime\prime}\left(x\right)\right]=s\left\{sF\left(s\right)-f\left(0\right)\right\}-f^\prime\left(0\right)$という図式です。ここから、一般に、
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[f^{\left(n\right)}\left(x\right)\right]=s^nF\left(s\right)-s^{n-1}f\left(0\right)-s^{n-2}f^{\left(1\right)}\left(0\right)-\cdots-f^{\left(n-1\right)}\left(0\right)
\end{equation}
となります。最終値定理を使うと
\begin{equation}
\mathcal{L}\left[f^\prime\left(x\right)\right]=sF\left(s\right)-\frac{1}{s}f\left(\infty\right)
\end{equation}
となりますね!
では、($\ref{5-11}$)式で$f\left(0\right)=C_0$, $f^\prime\left(0\right)=C_1$とすれば、
\begin{equation}
s^2F\left(s\right)=-a^2F\left(s\right)-sC_0-C_1
\end{equation}
と置けばよい、ということになります。すると、
\begin{equation}
F\left(s\right)=-\frac{sC_0+C_1}{s^2+a^2}
\end{equation}
となって、
\begin{equation}
f\left(x\right)=C_0 \cos{\pm ax}\pm\frac{C_1}{a}\sin{ax}
\end{equation}
と、解けます。

さて、ラプラス変換を用いた微分方程式の解法の真骨頂は非同次の場合です。つまり、
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f\left(x\right)+af\left(x\right)=e^{-x}
\label{5-24}
\end{equation}
などの場合です。フーリエ変換でも解けますが、非同次項(右辺)の変換ができない場合があって、面倒です。ラプラス変換はより自由度が高いので、($\ref{5-24}$)式を丸ごと変換できます。初期値として$f\left(0\right)=C_0$とすれば、
\begin{equation}
sF\left(x\right)-C_0+aF\left(s\right)=\frac{1}{s+1}
\label{5-25}
\end{equation}
さらに計算を進めて、
\begin{equation}
F\left(s\right)=\frac{1}{s+1}\frac{1}{s+a}+\frac{C_0}{s+a}
\end{equation}
これは、($\ref{5-3}$)~($\ref{5-9}$)の計算に無いのですが、右辺を「逆通分」します。
\begin{equation}
F\left(s\right)=\frac{1}{a-1}\left\{\frac{1}{s+1}+\frac{-1}{s+a}\right\}+\frac{C_0}{s+a}
\end{equation}
\begin{equation}
f\left(x\right)=\frac{1}{a-1}\left(e^{-x}-e^{-ax}\right)-C_0e^{-ax}
\end{equation}
ラプラス変換では、通分を逆に行う(部分分数を作る)操作が重要です。

微分方程式を越えて考える

さて、ラプラス変換やフーリエ変換を用いると微分方程式を演繹的に解くことができるとわかったわけですが、それはなぜか?ということを考えてみましょう。すぐに思い当たるのは、微分が機械的に可能である、ということです。普通、微分では関数の形がわからないと具体的な計算が行えないのですが、ラプラス変換やフーリエ変換では、関数の特徴はパラメータ化されているため、関数の具体的な形がわからなくても微分が可能です。こうした特徴が微分方程式を解く際に極めて強力なツールになるわけです。
これらをさらに抽象化すると、ある変換操作があって、その逆変換操作も保証されている場合、返還後にある操作(演算)が簡単になるなら、変換してから操作を行い逆変換することで、その操作を簡便化することが可能です。
世の中には様々な変換操作があります。一定の条件を満たせば逆変換操作が存在することになります。数多く存在する変換操作の中から、自分の目的に最も都合の良い変換操作を選び出すのはとても難しいことです。でも、それが可能になれば、僕たちには様々な利便性が生まれるはずです。例えば、ニュートン力学は物体の運動を質量・位置・速度によってパラメータ化するものです。そのパラメータ化を「変換」と考えてみると、リンゴや惑星という物体の属性を無視してそれらの運動を論じることが可能になります。ある意味、科学というのはそのような「変換」とその後に適用すべき「演算」を見つけるという側面があるのです。
この考え方は、科学(おもに物理)に関して、僕たちが普段抱いているイメージとは異なる哲学を与える場合があります。物理の法則の多くは微分方程式で表されていることから、微分方程式を解くのにフーリエ変換やラプラス変換を用います。逆に、微分方程式の方をフーリエ変換あるいはラプラス変換することを考えてみましょう。ニュートン力学では時間微分が運動方程式の中に現れるわけですが、フーリエ変換で考えれば、$i\omega$を乗じるという演算になります。つまり、微微分方程式ではなくなるのです。その結果、運動方程式は多項式になり、単純化される側面があります。フーリエ空間で$i\omega$を乗じるという計算が時間微分という演算に相当することから、時間微分という演算をある種の計算法、
すなわち「(単項)演算子」に対応付けることが可能かもしれません。その形式は微分を演算子$D$で表す「演算子法」と呼ばれる解法につながります。
さらにその考え方を推し進めた結果、シュレディンガー方程式が生まれ、量子力学が発展しました。シュレディンガー方程式では波動関数からエネルギーや運動量を取り出す演算子が微分で定義されます。シュレディンガー方程式をフーリエ変換すると単なる多項式となります。さらに波動関数をベクトルに変換すると、シュレディンガー方程式は行列1個にまとめることができます。それは固有値を求めるための方程式と同じ形をしており、最終的に量子力学は行列の固有値・固有ベクトルを求める問題に簡素化されます。
僕の理解では、これが可能であるための条件というのがあるのですが、それを議論している例を見たことがありません。微分方程式に関する基本的な理解が失われているため、世の中が迷走している可能性を危惧します。
運動方程式やシュレディンガー方程式に見られるように、物理法則を表すために微分が都合の良い場合には、微分方程式が基礎方程式になります。しかしながら、より複雑な物理法則に関しては単純な微分は役に立たないかもしれません。例えば、空間が曲がっている場合などです。よりモダンな物理ではより自由度の高い演算を求めた結果、テンソルを導入しました。
微分方程式を解く際に用いる級数展開は、現象を要素に切り分ける「見解」でした。級数展開は関数を別の形で表す「変換」です。一方、物理を記述する基礎方程式の多くは微分方程式ですが、それをより単純化して理解するために「変換」が使えます。いや、むしろ変換後の方程式の方が本質でそれをわかりやすい形にしたものが微分方程式だという風に見ることもできます。変換後の単純化された基礎方程式で話が済むのなら、そちらだけで話をしてしまえということで、量子力学は行列演算に終始するようになりました。その後の物理学はその方向性を先鋭化させています。
こうしてみると、僕たちは物理法則や自然現象を単純化する「変換」を求めているのだ、という考え方もできます。

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