微分方程式の解法あれこれ
このテキストの本論はすでに終了していますが、微分方程式を解くテクニックはまだまだあります。普通の微分方程式の教科書に倣い、いろんなパターンの解法を解説します。ただし、すべての解法を網羅するつもりはありません。よく目にする解法について、ちゃんと解けているかどうかを中心に議論します。
変数分離法
ほとんどの1次常微分方程式は解くことができます。その際に変数分離というテクニックが活躍します。その際の強力なテクニックが変数分離と呼ばれるものです。\begin{equation}
\frac{d}{dx}y-p\left(x\right)q\left(y\right)=0
\label{6-1}
\end{equation}
今まではyの代わりに$f\left(x\right)$を使ってましたが、そうするとややこしくなるので今回は$y$で許してください。ちょっとした変形を行うと次のようになります。
\begin{equation}
\frac{1}{q\left(y\right)}dy=p\left(x\right)dx
\label{6-2}
\end{equation}
両辺を積分すれば、解が得られます。このとき、$\frac{d}{dx}y=\frac{dy}{dx}$であり、微分要素を一つの変数のように扱っています。なんとなく自然な感じがします。確かに1階微分の場合は大丈夫なんですが、いつもこんな感じでOKかというとそうでもないので気をつけましょう。
1階の微分方程式の場合には、($\ref{6-2}$)式のように最終的に単純な積分に帰着できる場合があって、変数分離形と呼びます。現時点では抽象的なので変数分離がどのくらい役に立つかはピンとこないと思います。
1階線形微分方程式
次のような微分方程式を考えます。\begin{equation}
\frac{d}{dx}y+p\left(x\right)y=q\left(x\right)
\label{6-3}
\end{equation}
この微分方程式はかなり一般性を持つということがわかると思います。さて、この微分方程式は非同次なので、とりあえず同時形を考えます。
\begin{equation}\frac{d}{dx}y+p\left(x\right)y=0
\label{6-4}
\end{equation}
この微分方程式はすぐ解けます。というのも次のように変形し、$y$と$x$を左右に分けるのです。
\begin{equation}
\frac{1}{y}dy=-p\left(x\right)dx
\end{equation}
これは変数分離形の一種です。なので、両辺を積分すると解が得られます。すなわち、
\begin{equation}
\log{y}=-\int p\left(x\right)dx+C
\end{equation}
ただし、積分定数も考慮します。もうちょっとわかりやすい形にしておきましょう。
\begin{equation}
y=Ce^{-\int p\left(x\right)dx}
\label{6-7}
\end{equation}
このようなことができるのは、($\ref{6-4}$)式で$y$に関する項と$x$に関する項とを左右に分けることが可能であったということが重要です。
($\ref{6-3}$)式は非同次でした。なので、特殊解が存在するはずです。特殊解は無理やり見つけてやればよいということを第2章で論じました。その方法は何でもよいはずです。そこで、直観によって($\ref{6-7}$)式を少しいじった次の式を考えます。
\begin{equation}
y=r(x)e^{-\int p\left(x\right)dx}
\end{equation}
この式を($\ref{6-3}$)式に代入してみます。すると、次式が得られます。
\begin{equation}
e^{-\int p\left(x\right)dx}\frac{d}{dx}r\left(x\right)-r\left(x\right)p\left(x\right)e^{-\int p\left(x\right)dx}+p\left(x\right)r\left(x\right)e^{-\int p\left(x\right)dx}\\
=e^{-\int p\left(x\right)dx}\frac{d}{dx}r\left(x\right)=q\left(x\right)
\end{equation}
左辺第2項がうまく消えてくれました。ここから、
\begin{equation}
\frac{d}{dx}r\left(x\right)=q\left(x\right)e^{\int p\left(x\right)dx}
r\left(x\right)=\int{q\left(x\right)e^{\int p\left(x\right)dx}dx}
\label{6-10}
\end{equation}
となります。逆に、($\ref{6-10}$)式を満たす$r\left(x\right)$は($\ref{6-3}$)式の特殊解として使えるということです。この特殊解と同次解である($\ref{6-7}$)式と合わせたものが最終解となります。すなわち、
\begin{equation}
y=e^{-\int p\left(x\right)dx}\left\{C+\int{q\left(x\right)e^{\int p\left(x\right)dx}dx}\right\}
\label{6-11}
\end{equation}
これは一般には「公式」として知られているものです。このように導出は少し面倒ですが、基本に立ち返ればそれほど難しいものではありません。微分方程式を解くための基本が理解できていれば、説明に時間はかからないのですが、基本が理解できていないと、無理やり特殊解を持ってきてそれでOKとする根拠が示せません。だから、公式として説明なしに片付けてしまった方が楽だ、となってしまいます。そんな講義を受けると、解けることは解けるけどなぜ解けるのかはわからないし、解けたという確信も得られません。この公式を覚えろ、と言われた時点で、僕はその講義を放棄しました。
普通ならこれで終わりなんですが、もう少しだけ詰めておきましょう。($\ref{6-7}$)式や($\ref{6-10}$)式ではネイピア数の指数に不定積分があります。不定積分なので積分すると積分定数が付け加わりますが、どのように取り扱えばよいでしょう。簡単な方の($\ref{6-7}$)式からやっておきましょう。
\begin{equation}
\int p\left(x\right)dx=P(x)+D
\end{equation}
とすると、($\ref{6-7}$)式は
\begin{equation}
y=Ce^{-\int p\left(x\right)dx}=Ce^{-P(x)-D}=Ce^{-D}e^{-P(x)}
\end{equation}
となり、$e^{-D}$という定数が乗じられます。これは元々ある係数Cと区別できないので、ネイピア数の指数に現れる不定積分か生じる積分定数は無視して構わないと結論できます。少し複雑にはなりますが、($\ref{6-10}$)式の積分定数は$r\left(x\right)$の中に吸収できるので、これも無視できます。
ベルヌーイの微分方程式
($\ref{6-11}$)式はとても強力なので、導出する手間を惜しんで暗記するくらいでよいということで、通常の講義では「公式」として示されています。前節で示したように導出は難しくないのですが、特殊解と一般解の関係をきちんと説明しないと、導出の際に確信が持てません。説明する側としては、つっこみが怖いので避けたいところです。おそらくそのような後ろ向きの理由によって導出が議論されないんでしょうね。導出の問題があるものの、前節の「公式」はとても強力です。そのままでも十分強力なのですが、さらに発展形も存在します。その発展形の一つにベルヌーイの微分方程式と呼ばれるものがあります。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}y+p\left(x\right)y=q\left(x\right)y^n
\label{6-14}
\end{equation}
nが0の時は($\ref{6-3}$)式と同じです。nが1の時の右辺は左辺第2項とまとめることができ、同次形の($\ref{6-4}$)式と同じになります。それ以外でも解けるというのがベルヌーイの微分方程式の重要な点です。
テクニックとしては、($\ref{6-14}$)式を無理やり($\ref{6-3}$)式の形にしてあげるということです。具体的には、$z=y^{1-n}$という新たな変数を導入します。これを$y$で微分します。
\begin{equation}
\frac{dz}{dy}=y^{-n}
\end{equation}
ここから、$y^ndz=dy$として、($\ref{6-14}$)式に代入します。
\begin{equation}
y^n\frac{dz}{dx}+p\left(x\right)y=q\left(x\right)\frac{dy}{dz}y^n
\frac{dz}{dx}+p\left(x\right)y^{1-n}\\
=q\left(x\right)
\frac{dz}{dx}+p\left(x\right)z=q\left(x\right)
\end{equation}
これは($\ref{6-3}$)式と同じ方法で解くことができます。このような変形は($\ref{6-14}$)式の形式であれば必ず可能です。逆に、このような変形が可能な特別な形が($\ref{6-14}$)式というわけです。この導出に見られるように、nは整数以外でも大丈夫ということがわかります。
ベルヌーイの微分方程式のように、解けるタイプに変形可能な特別な形式の微分方程式はまだまだ存在します。しかしながら、それらの各論は普通の微分方程式の教科書に書いてあって、僕が改めて議論しても似たり寄ったりにしかなりません。であれば、のこりの部分は他の教科書に任せることにします。
演算子法
特性方程式を使うと、機械的に微分方程式を解くことができます。その背景にはフーリエ変換やラプラス変換があり、微分を変数で置き換える根拠になっています。それをさらに発展させることもできます。\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2}y+a\frac{d}{dx}y+by=q\left(x\right)
\end{equation}
このような微分方程式があった場合、特性方程式では$\frac{d}{dx}$を$t$とかで置き換えて、同次解を求めました。$\frac{d}{dx}$はある種の演算子$D$だと思って、次のように置き換えてみます。
\begin{equation}
D^2y+aDy+by=\left(D^2+aD+b\right)y=q\left(x\right)
\label{6-18}
\end{equation}
もし、ここから
\begin{equation}
y=\frac{1}{D^2+aD+b}q\left(x\right)
\end{equation}
って出来たらとてもラッキーな気がしませんか?そういうことが可能かどうか、可能ならどういう原理だろうか、というのが今回のお題です。
もっと簡単な場合を検討してみましょう。いろんなものをそぎ落として次の式なら簡単です。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}y=q\left(x\right)
\label{6-20}
\end{equation}
これは、簡単に積分出来て、
\begin{equation}
y=\int{q\left(x\right)dx}
\label{6-21}
\end{equation}
です。一方、演算子$D$を使うと($\ref{6-20}$)式は$Dy=q\left(x\right)$なので、
\begin{equation}
y=\frac{1}{D}q\left(x\right)
\label{6-22}
\end{equation}
($\ref{6-21}$)式と($\ref{6-22}$)式は同じはずですから、$\frac{1}{D}$という演算は積分だとわかります。一方、($\ref{6-20}$)式のフーリエ変換は、
\begin{equation}
i\omega Y\left(\omega\right)=Q\left(\omega\right)
\end{equation}
なので、
\begin{equation}
y=\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{i\omega}Q\left(\omega\right)\right]
\end{equation}
ここから、($\ref{6-22}$)式において、$D$は$i\omega$、フーリエ変換・逆フーリエ変換が省略されているということがわかります。
さて、もう少し難しい形である
\begin{equation}
Dy+by=q\left(x\right)\\
y=\frac{1}{D+b}q\left(x\right)
\end{equation}
を考えてみましょう。$\frac{1}{D}$は単純な積分ですが、定数の補正が付いているとどのような演算なのか見えにくくなります。でもフーリエ変換・逆フーリエ変換が介在すると考えると、
\begin{equation}
y=\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{i\omega+b}Q\left(\omega\right)\right]=\int_{-\infty}^{\infty}{\frac{1}{i\omega+b}Q\left(\omega\right)e^{i\omega x}d\omega}
\end{equation}
ここで、$i\omega+b=iq$とすると、$q=\omega-ib$
\begin{equation}
y=\int_{-\infty}^{\infty}{\frac{1}{iq}Q\left(q+ib\right)e^{i\left(q+ib\right)x}dq}=\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{iq}Q\left(q+ib\right)e^{-bx}\right]
\end{equation}
ここで、
\begin{equation}
Q\left(q+ib\right)=Q\left(q\right)\otimes\delta\left(q+ib\right)
\end{equation}
であることを考慮すると、
\begin{equation}
\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{iq}Q\left(q+ib\right)e^{-bx}\right]=
\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{iq}Q\left(q\right) \otimes\delta\left(q+ib\right)\right] e^{-bx}
\end{equation}
\begin{equation}
y=\left\{\int{q\left(x\right)e^{bx}dx}\right\}e^{-bx}
\label{6-30}
\end{equation}
さらに、($\ref{6-18}$)式は演算子を用いて、
\begin{equation}
y=\frac{1}{D^2+aD+b}q\left(x\right)=
\left\{\frac{1}{D+c_1}+\frac{1}{D+c_2}\right\}q\left(x\right)
\end{equation}
というように分数の和に変換できるので、($\ref{6-30}$)式と同じように積分が可能です。このように微分演算子Dをあたかも変数のようにして微分方程式を解くテクニックを演算子法あるいは逆演算子法と呼びます。
このままでは($\ref{6-30}$)式に残る積分がなかなか歯ごたえがありますが、$q\left(x\right)$が$e^{\alpha x}$という特別な形の場合にはとても簡単になります。すなわち、
\begin{equation}
\left\{\int{q\left(x\right)e^{bx}dx}\right\}e^{-bx}=\left\{\int{e^{\alpha x}e^{bx}dx}\right\}e^{-bx}\\
=\frac{e^{\left(\alpha+b\right)x}}{\alpha+b}e^{-bx}=\frac{e^{\alpha x}}{\alpha+b}
\end{equation}
ここで、αに関しては複素数もOKだし、指数の和もOKです。つまり、三角関数もOKということです。
もちろん、この方法は特殊解を求めるものですので、同次解は別途計算し、和の形で追加されます。さて、$q\left(x\right)$が$e^{\alpha x}$の場合は、特殊解を$Ce^{\alpha x}$と決め打ちしてもよさそうです。すると、
\begin{equation}
Dy=C\alpha e^{\alpha x}=\alpha y
\end{equation}
になります。ここから、$D=\alpha$と短絡します。これを($\ref{6-18}$)式に代入すると、
\begin{equation}
y=\frac{1}{\alpha^2+a\alpha+b}e^{\alpha x}=Ce^{\alpha x}
\end{equation}
ここから、$C=\frac{1}{\alpha^2+a\alpha+b}$と求まります。さて、($\ref{6-30}$)式はとても汎用性が高いものですが、積分が残っていて、うまい具合に積分できるかは未確定です。一方、$q\left(x\right)$が指数の形だと、とても単純になるので、こちらの方が使い勝手が良いという事情があります。なので、演算子法というと、最後に紹介した方法を指す場合があります。これも、途中の考え方が一切失われて、省略形だけが劣化コピーとして伝承された例だと僕は思います。
数値計算
微分方程式には線形以外に非線形もあります。非線形の場合は解の和が自動的に解になることはないので、すべての解を網羅的に列挙することは極めて困難です。というかほとんど不可能です。その代り、具体的に数値を代入して解くということがしばしば行われます。数値計算なんて呼ばれますが、ある場合にはシミュレーションとも呼ばれます。というのも微分方程式がある現実的な実験系を想定している場合、その方程式を解くということは、想定している実験系の計算機実験にほかならないからです。さて、微分方程式を数値計算によって解くにはどうしたらよいでしょう。基本的な考え方は難しくありません。$dx$を非常に小さい値だと思って、式の評価を繰り返すというのが基本です。例えば、($\ref{6-20}$)式だと、$dy=q\left(x\right)dx$なので、すごく小さな$dx$に対して、すごく小さな$dy$が得られます。それらの$dx$と$dy$に対して、以下の操作を繰り返します。
\begin{equation}
y\gets y+dy\\
x\gets x+dx
\end{equation}
このような式変形を「差分化」と呼びます。さて問題はどのくらい小さな$dx$を使えばよいか、ということです。その議論はシミュレーションが盛んな流体力学の分野で真剣に議論されており、CFL条件あるいはクーラン条件として知られています。端的に言えば、$\frac{dy}{dx}$は1より小さくなければならない、ということになります。ま、あくまでも目安で、精密な計算のためには刻み幅は小さければ小さいほど良いのです。ただし、小さすぎると計算時間がべらぼうに必要になります。
さて、この方法は数値積分で言うところの区分求積に相当します。というのも、微分方程式を解くとは、積分操作に近いからです。あるいは比喩的に「積分」と呼ぶことすらあります。数値積分では計算誤差を抑えるためにSimpson法なるものが使われます。そのSimpson法の微分方程式版とも言えるのがRunge-Kutta法です。詳しいことは、ググってください。ほとんどプログラミングにかかわることなのでこのテキストでは名前の紹介にとどめます。
偏微分方程式
微分方程式の中には変数が複数ある場合があります。よくあるのは、時間tと座標xを変数にしたもので、次のような拡散方程式は典型例です。\begin{equation}
\frac{\partial}{\partial t}\phi\left(x,t\right)=D\frac{\partial^2}{\partial x^2}\phi\left(x,t\right)
\label{6-36}
\end{equation}
このとき用いている$\partial$は偏微分記号です。$\phi\left(x,t\right)$は$x$と$t$の関数ですが、$\frac{\partial}{\partial t}\phi\left(x,t\right)$では$t$に関してだけ微分を考えるという意味になります。これに対し、$\phi\left(x,t\right)$の全微分というのもあって、おおむね次のような関係を指します。
\begin{equation}
d\phi\left(x,t\right)=\frac{\partial}{\partial t}\phi\left(x,t\right)dt+\frac{\partial}{\partial x}\phi\left(x,t\right)dx
\end{equation}
偏微分、全微分の違いのために、偏微分記号を用いた微分方程式を偏微分方程式と呼びます。一方、全微分に基づく微分方程式は常微分方程式と呼びます。これまでの議論はすべて常微分方程式を取り扱ってきました。というのも、1変数の関数では偏微分を考える必要がないからです。ここから、偏微分方程式というのは多次元関数を取り扱う際に重要になることがわかります。
さて、($\ref{6-36}$)式を解くための一般解ですが、今まで取り扱ってきたものは1変数の関数がほとんどでしたので、なかなかピンとこないと思います。というか、境界条件によってはそのような一般解がないこともあります。ということでフーリエ変換やラプラス変換を考えてみましょう。ラプラス変換は1次元じゃないと積分区間の問題が生じるので使いにくいという問題があります。するとフーリエ変換が残ります。ただし、フーリエ変換も1次元だったのでこれを2次元以上に拡張します。
\begin{equation}
\mathcal{F}\left[\phi\left(x,t\right)\right]=\iint{\phi\left(x,t\right)e^{-i\left(\omega t+qx\right)}dtdx}
\end{equation}
詳細は省きますが、ネイピア数の指数部が内積の形になります。これを用いると($\ref{6-36}$)式は次のようになります。
\begin{equation}
i\omega\Phi\left(q,\omega\right)=-Dq^2\Phi\left(q,\omega\right)
\end{equation}
ここから、$i\omega=-Dq^2$となります。さらに解き進めるには境界条件等が必要になります。そしてその点が偏微分方程式の特徴でもあります。境界条件がはっきりしていないと途中までしか計算を進めることができないのです。
偏微分方程式を取り扱う際に特に重要なのは変数分離形です。もし$\phi\left(x,t\right)=X\left(x\right)T\left(t\right)$である場合、($\ref{6-36}$)式は次のようになります。
\begin{equation}
X\left(x\right)\frac{\partial}{\partial t}T\left(t\right)
=DT\left(t\right)\frac{\partial^2}{\partial x^2}X\left(x\right)\\
\frac{1}{T\left(t\right)}\frac{\partial}{\partial t}T\left(t\right)
=\frac{D}{X\left(x\right)}\frac{\partial^2}{\partial x^2}X\left(x\right)
\label{6-40}
\end{equation}
これが偏微分方程式における変数分離形です。$x$と$t$は基本的に独立変数なので自由に変化します。もし$x$を一定値にして$t$を変化させたとき左辺の変化と右辺の変化が常に同じであるのには無理があります。そのようは無理があっても($\ref{6-40}$)式が成立するためには、($\ref{6-40}$)式は一定値である必要があります。すなわち、
\begin{equation}
\frac{1}{T\left(t\right)}\frac{\partial}{\partial t}T\left(t\right)=\frac{D}{X\left(x\right)}\frac{\partial^2}{\partial x^2}X\left(x\right)=\lambda
\end{equation}
$\lambda$は任意の定数です。大きさは境界条件から決まることが多いです。ここから、2つの微分方程式が得られます。。
\begin{equation}
\frac{\partial}{\partial t}T\left(t\right)=\lambda T\left(t\right)\\
\frac{\partial^2}{\partial x^2}X\left(x\right)=\frac{\lambda}{D}X\left(x\right)
\end{equation}
それぞれの式には偏微分記号がありますが、1変数なので常微分方程式として解いて構いません。このテクニックはシュレディンガーが水素原子様電子軌導を解いた際にも用いられました。
さて、この解法において、$\phi\left(x,t\right)=X\left(x\right)T\left(t\right)$と置いたことがポイントでした。このように考えるのは妥当でしょうか?それはわかりません。そのように置けない可能性は否定できません。偏微分方程式の特徴としてすべての可能性を網羅しつくすことはとても難しいのです。そのため、「偏微分方程式を解け」という問題はテストに出にくいのです。だからと言って、重要でないというわけではありません。
コメント
微分方程式の一般的な講義に対するアンチテーゼとしてこのテキストを作りました。天下り式の解法をひたすら暗記するという方法ではなく、きちんとした解法の「原型」を示し、他の解法を「原型」に対応させて理解するという方法を取りました。その試みは成功していると僕は思っています。僕の中ではすべての事柄が矛盾なく説明できていると思っています。一部にわかりにくい部分があるかもしれませんが、とりあえずはこれで完成です。普通は行わないような細かな議論も丁寧に含めるようにしました。その結果、テキスト内で取り扱う内容が厳選されることになりました。特に、種々の解法では多くのものを割愛しました。ただ、第2章で級数展開による解法を紹介しており、それでかなりの解法をカバーするはずです。「解けるものしか解けない」のだから解けるものだけを議論するという立場はあまりにも乱暴だと思います。今解けないとしても、未来永劫解けないとは限りません。このテキストでの議論は、新たに発見されるかもしれない級数展開をカバーするという点で、他のテキストは一線を画していると思います。
惜しむらくは、例題がほとんどないことです。もし、書籍として出版する機会があれば、その部分を増補したいですね。
僕は決して数学者ではありませんし、特別に微分方程式を勉強したわけでもありません。テキストの随所に書いていますが、僕はむしろ落ちこぼれです。落ちこぼれだからこそ、しつこく考え続けられたのだと思っています。僕は10年以上かけて、ゆっくりと理解に至りましたが、ちゃんとした教科書あるいは指導者がいれば、そんな苦労は必要なかったと悔しく思っています。それがこのテキストを作成した動機です。
僕が微分方程式の解法にある程度の確信を得たのは、フーリエ変換を身につけたときです。フーリエ変換を使うとある種の微分方程式を演繹的に解くことができます。しかしながら、そうでないものもあります。あるいは、通常の解法はフーリエ変換とは違うものも多いですよね。
次の理解の段階に達したのは、「微分方程式の解が張る空間」というフレーズの意味が直観できたときです。線形微分方程式の一般解は直交関数系の線形和になっていて、ベクトルとの類似性から多次元空間とみなせるというのがフレーズの意味です。それが一般的に成立すると先のフレーズは暗に主張します。多くの特殊関数と呼ばれる級数は微分方程式の解として得られており、それらには直交性があります。つまり、数学公式集に載っている級数はことごとく微分方程式の解になり得るということです。いや、本当は、そういう特性があるからこそ、数学者たちはそのような級数を探し続け、その成果を公式集に収めているのだとわかりました。であれば、最初からそのように教えてほしかった、というのが正直なところです。シュレディンガーはそう理解していたから、ルジャンドル陪関数と球面調和関数を選択することができたのです。
そういうからくりに自力で到達しなければならない理由は見当たりません。このテキストにあるように、それほど多くない分量の議論で説明し、理解できるのです。そのような教科書や教授法が見当たらないのは人類の損失だと思います。
微分方程式が理解出来たら、次は量子力学にチャレンジしたくなりますよね。僕は学生のころ、微分方程式が理解できなかったので量子力学もあきらめました。微分方程式が解けるなら、量子力学だって理解できるかもしれません。
もちろん、量子力学もこんな調子で「再構築」しています。ただ、一般的な流儀からあまりにかけ離れているので、細部の詰めが完了していません。という状態が10年にもなっているので、何とかしないといけないなぁ、とは思っています。でも、僕の専門は微分方程式でも量子力学でも何でもないということは知っておいてください。
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