2018年5月26日土曜日

やりたいことって言われてもねぇ

就職活動真っ只中。

今年2018年は、かなりの売り手市場らしいですね。

日本では、新卒一括採用が行き過ぎているのだけど、だれもそれをやめられなくなっています。新卒ってのは大学を出たばかりで、業務に必要なスキルをほとんど持ちません。なのに、将来性という名目で好待遇での採用が横行しています。一方、企業側も、優秀かもしれない人材を他社にとられまいと、好待遇を競う。新卒採用というのは、学生にとっては一生に一度の好機となるので、自分を高く売るために様々な駆け引きが繰り広げられます。そういった状況に便乗すべく、就職産業というマーケットが幅を利かすことになります。リクルートなどの就職産業は、企業と学生のマッチングと称し、様々な就職セミナーを開催し、学生をあおって、自分たちの事業を拡大してきました。

就職セミナーの主な内容は、「企業研究」「自己分析」「エントリーシートの書き方」「面接の心得」などです。ちゃんと掘り下げた内容ならまだよいですが、1時間ほどのセミナーでは薄っぺらい内容にならざるを得ません。また、正直に現実を伝えると、学生は絶望するだけになるので、かなり甘い内容にならざるを得ません。そんなセミナーに意味があるのか?といつも思います。

企業研究

学生程度が「企業研究」と称して、正しく状況を読み解けるなら、株で損する人はいません。また、企業も経営を左右するような核心的な情報は開示するわけがありません。
自分が会社の中でどのように貢献できるのか考える、というのが企業研究の目的のひとつとされています。しかし、企業では、何十人、何百人という社員が毎日知恵を絞って、自分たちの会社への貢献方法を考えているわけで、一人の学生がポッと思いつくようなアイデアなんて、何十回も検討されて否定されているはずです。企業は学生にそんなことを期待したりしません。何のために「企業研究」を学生に進めるのか理解不能です。
就職してしまえば、会社のことを知る機会と時間はたっぷり確保できます。だから、企業のことは就職してから学べばよいと思います。経営を目指すならば、企業研究の分析力が重視されるでしょう。その場合に重要なのは、ライバル企業との比較であり、志望先のことだけをマニアのように調べ上げることは要求されません。そういう理解でないということならば、その人は自分の能力が足りないことを露呈していることになります。ということで、あんまり調べすぎると、むしろ逆効果、ということになると思います。

面接の心得

僕は「面接」の対応をやったことがあります。ちょっとした入試業務です。その時、ご多聞に漏れず「志望動機」を最初に尋ねました。でも実のところ、志望動機は面接の採点には一切関係しませんでした。志望動機を尋ねるのは、挨拶みたいなものという位置づけで、面接対象を落ち着かせるのが目的でした。
志望動機というのはだれでも用意してくるもので、本当に吟味したければ文章であらかじめ提出させることができます。例えば、エントリーシートにも志望動機欄があるものです。面接というのは極めて高コストな試験法なので、文書で検査できる項目をわざわざ面接で行うのは非合理的です。時間がもったいなので、面接では志望動機を聞きたくないのが面接官の本音でしょう。にもかかわらず尋ねるのは、以降の面接をスムーズに行うためです。
面接では文書では審査できない側面を重視します。というか、ちゃんとした面接はそうでなくてはいけません。受け答え、論理性、課題に対する真摯さなどです。だから、服装も容姿もあからさまな審査対象ではありません。
ただし、合理性という観点からは、服装は審査対象となりえます。例えば、目立つことが主たる目的の服装・容姿はビジネス上の障害になるのでNGだけど、それがビジネス上の演出として理にかなっているなら、服装・容姿が加点となるでしょう。就職産業のセミナー講師は現実には素人なので、他人の人生を左右する最終判断を行う責任をちゃんと理解していません。だから、被面接者の視点からしか「面接」を理解できていません。そういう人を講師にしたセミナーに意味なんてあるわけありません。

自己分析

自己分析ってのは、自分の長所と短所を自覚しましょう、ってことだと思いがちです。でもちょっと短絡的ですよね。まず、長所と短所を一対にしているところが浅はかです。言葉としては対になっていますが、現実には全く別物です。
長所と短所のもっとも違う点は、短所は厳然として存在しており、長所は自ら形成してゆくものだ、ということです。日本人は単一民族なので、生物としての基礎力に個人差がほとんどありません。これまでのトレーニングや努力によってさまざまな形質を獲得し、個人差が生まれています。そのようにして形成された個人差のことを「長所」と呼びます。生まれつきの有利不利は多少あるでしょうが、誇れるような長所は自らの意思で獲得してきたものです。一方、短所はトレーニングや努力が及ばず、そのままに残された形質です。自らの意思とは関係なく、現在持っている形質です。だから、長所と短所を列挙するとき、短所はすぐに見つかりますが、長所はなかなか見つかりません。
また、長所や短所がどのくらいのレア度かということが現実には重要になります。例えば、「社交的」という形質において、アベレージくらいのレア度でも長所に分類するかもしれません。でも、その程度の形質は実際には無視されます。長所として特筆できるレベルは最低でも10人に1人くらいのレア度が必要です。そして、そのくらいのレア度に達しようとすると、何事においても継続的・意識的トレーニングが必要になります。
そのようなトレーニングを行っている学生はめったにいません。確かに、スポーツをやっていれば、レア度の基準はクリアできます。ただし、そのスポーツが仕事に役立つかが大事ですよね。そこのつながりを説明できないと、就職活動における長所として挙げることができません。
長所とは意識的にトレーニングするものなので、「自分がどのような人間になりたいか」ということを突き詰め、そのための努力を継続した結果、獲得するものということになるでしょう。就職活動の準備として半年前くらいに見つけようとしても無理です。

短所は逆に既存の形質のはずで、それはすぐに見つかります。でも、短所はある場合には長所にもなるということを意識することが大事だと僕は思います。例えば、僕はぐうたらです。それは「勤勉」という良い形質の対極にあります。ただ、ぐうたらでいるためには、勤勉でなくてもよいようにうまく立ち回らなければなりません。なので僕は、あらゆる物事に工夫をします。それは僕のよい形質になっています。
勤勉な人は与えられた課題をきっちりこなそうとします。ぐうたらな僕は、課題を完全に達することは最初からあきらめ、その課題を含むような新たな課題設定を考え出し、それをより少ない努力で達成しようとします。その結果、当初の課題を越えて達成し、より高い評価を得るようにしています。そういうのはむしろ手間暇かかるわけですが、最終的には少ない努力で+αの評価を得られて、お得です。そのような行動原理は本質的に「ぐうたら」に起因すると僕は思っています。僕の評判は決して「秀才」ではないのです。
短所は時に長所にもなります。それをきちんと理解するのは大事なことです。ただ、そういうのは就職活動の一環として行うようなものではないと思います。

エントリーシート

現在の採用プロセスでは、履歴書とは別に様々な自己PRを記載したエントリーシートが要求されます。志望者が多すぎるので、書類選考するのですが、その材料にするものです。なので、エントリーシートは基本的に候補者を間引くために使われると思って間違いありません。
では、どのくらいの確率で書類選考をパスするでしょう。まず、スペックによる選考があり、これは学歴等が重視されます。基準に達していなければ、エントリーシートを頑張って書いても無駄になります。合格率が50%なら、気合が入りすぎるのはよくないかもしれません。合格率が10%なら、丁寧さが重視されるでしょう。合格率が5%以下なら、普通に書いても無駄です。何かしら個性が要求されます。
極端に合格率が低い場合を除き、重視されるのは文章力だと思います。僕もそうだったのですが、日本の学校教育では文章力が使い物になりません。研究室では徹底して日本語の文章を書く練習を行うくらいです。書類選考が通らない学生については、エントリーシートの添削を行うことがあります。そうすると面接に進めたりします。ただ、そのように僕らが手を貸したとしても、どこかの時点で文章力の不足が露呈するでしょう。
逆に、ある程度の文章力が備わっていると就職活動を有利に進めることができます。ただ、文章力を鍛えるにはきちんとした指導者と時間と本人の意思が必要です。特に、自分の文章力がダメだということは、なかなか受け入れがたいもので、本人の意思が最も大きな障害です。

コミュニケーション

コミュニケーション力というと、「しゃべる能力」と短絡する傾向にあります。でも、本当のコミュニケーション力はもっと別のところにあります。
フリーアナウンサーの宮根誠司氏が朝日放送に入社した際の面接の話がとてもわかりやすいです。もともとアナウンサー志望ではなかったそうですが、気軽な気持ちで応募したそうです。3つくらい面接があったそうですが、それぞれの面接で面接官の役職や年齢が異なると考えて、面接官の年齢層に応じたネタを仕込んで面接に臨んだそうです。それはつまり、コミュニケーションの基本の一つ、相手のことを考える、ということです。そして、幅広い年齢層に合わせたコミュケーション術を身につけておくということも大事です。今の若い人たちは、同年齢の人たちとしかコミュニケーションの経験がないので、世代を超えたコミュニケーションが苦手です。そういうのを普段から鍛えておくべきでしょう。
もう一つ重要なのは、就職面接において何が審査されるのかきちんと理解するということです。僕たちは理系なので、研究内容のプレゼンテーションが要求されます。学生たちは一生懸命研究内容を説明しようとしますが、実は面接で要求されているのは研究内容そのものではありません。面接官はその研究の専門家ではないので、細かな内容までわかりません。だから、ディテールが精密で正確かなんてのは要求されません。それよりも、門外漢を想定した説明になっているか、情報の重要度がきちんと分類され、重要なものほど伝わりやすいように工夫されているか、自分のコントリビューションをアピールできているか、などが評価されます。であれば、ごちゃごちゃ詰め込んだプレゼンは逆効果で、内容を絞って重要なことだけを伝えるように準備すべきです。でも学生は不安なので、そういう思い切ったプレゼンは作れないのです。であれば、内定は遠いよね。

右へならえ

今の学生はゆとり教育真っただ中で育った世代です。ゆとり教育は個性尊重が叫ばれ、実践されたはずです。にもかかわらず、学生たちはハウツーに終始し、第三者(就職産業)に振り回されています。僕の実感ですが、ゆとり教育によって「右へ倣え」が得意な人たちがむしろ増えたように思います。いきなり自由が与えられると、どうしたらよいかわからないので、他人の真似をするようになる、ということだと僕は思います。自由を与える前に、自由を活用する知識とスキルがないといけません。そのためには、本人の意思を無視して、様々な選択肢を体験する必要があります。
就職活動を始めるときに、「どの会社でもチャンスがありますよ~」「やりたいことを実現する手段として就職してくださいね~」ときれいごとを言われても、ぶっちゃけ困るというのが学生たちの本音だと思うのです。
就職活動が自由化したせいで、膨大な選択肢が学生たちにはあります。その膨大な選択肢の中で、就職活動を有利に進める情報を求めてあがき、就職産業に踊らされているのは、極めて不幸です。そして、もっと不幸なのは、そういう状況に自分が置かれていることを全く理解できていないことです。
世の中には膨大な数の会社があります。どんな会社に就職しても、やることはほとんど変わりません。給料も10%くらいしか変わりません。任地や待遇は少し違うかもしれません。それに応じて、就職後の生活もちょっとは違うかもしれません。でも、それらはほんの少しの違いかもしれません。
僕らの学生の頃は、指導教官の推薦で面接などなしに就職先が決まりました。選択肢のない「お見合い結婚」みたいな感じです。いや、むしろ会社とのコネを太くするための「政略結婚」かもしれません。でも、気に入らなくて会社を辞めた、という話はほとんど聞きません。今は、「合コン」「デート」を繰り返えす「恋愛結婚」に近いわけですが、会社を辞める話を多く聞きます。僕の学生でも2割~3割は転職しています。昔に比べると、若い間の転職が多くなっていると思います。それは、見合い結婚が減って、離婚が増えているという事情に通じるのかもしれません。

現代社会は極めて急速に変化しています。変化の波に乗り遅れないことは大事です。ただ、変化があまりに急速で、僕たちは過去について顧みなくなっています。でも、どれだけ世の中が変化しても絶対に変化しないものがあります。その一つは、社会の構成要素としての人です。これも将来揺らぐかもしれませんけどね。
世の中は人の集団です。人は自由に創意工夫し、しのぎを削っています。その中で、どれだけ有利に人生を過ごせるかを競っています。より良い就職先を見つける努力は、まさにその一環です。競う相手は他人です。他人と自分の違いを見つけて、有利な展開に持ち込むのが鉄則です。有利不利を決するのは個性です。どのような個性が有利であるかは、事前に知ることができません。でも、個性がなければ、勝てる見込みは生まれません。学生の間は、個性を作り出すこと、個性を磨くことが大事です。それは今も昔も変わりません。「右へ倣え」戦略は絶対的に不利なのです。それが、今も昔も、おそらく人間が社会の構成要素の主役である限り、続くものです。

自分は何がしたいのか?

就職はゴールではありません。就職してから、何十年も働くことになります。しかしながら、学校教育では「働く」ということ自体を勉強する機会がないようにも思います。
「働く」には様々な定義があります。多くの人は「労働力を提供し、対価を得る行為」と言うとすっきりするかもしれません。でも、「労働」とは「働くこと」なので、言葉の循環があって定義になっていません。また、「労働」には、「体を動かす」というニュアンスがありますが、仕事にはそういうもの以外も含まれます。なので、アルバイト等では、「時給」という概念を用います。対価としての給料が時間で発生するということです。この考えに従えば、働くとは「時間を提供することで、対価を得る行為」となります。
しかし、時給が設定されるのは、比較的低級な仕事だけです。高度な仕事に対しては「時給」は適用されません。高度な仕事とは、「できる人が限られている仕事」ですから、プレミアが発生しているので、給与に上積みがなされます。高い給与を得ようとするなら、プレミアを多くする必要があるわけです。そのためには、人材としてのレア度を高める必要があるわけです。
就職してから長い間働くわけですから、会社はあなたの隅から隅まで知ることになるでしょう。採用面接のとき、背伸びして取り繕って何とか内定を勝ち取ったとしても、数年働けば、底が知れます。その時、人材として再び査定され、その後の待遇が決まります。レア度の低い人材の価値は高くなりようがないので、出世は望めません。鶏口牛後の牛後になるでしょう。

そういう人生がよいのですか?
世の中で活躍したいのではなかったのですか?

僕はどちらでもよいと思っています。期待され、活躍する人生は、極めてストレスフルです。それを苦にする人も多いと思います。だから、できるだけ大きな会社に就職して、目立たない人生を目指すというのは、合理的かもしれません。でも、そのような人生を希望することを表明する学生は見たことがありません。
理由は二つあり、身の丈を知らず、能天気な希望を抱いているか、本当は希望しているけど恥ずかしいから公言できないか、だと思います。前者は本人の前途が多難です。後者だと、会社を裏切ることになります。
会社は何度も裏切られてきたのです。だから、採用面接を何度も行い、「良い人材」を見つけようとするのです。大卒あるいは大学院卒で「働く」ということは、活躍することが期待される環境に身を置くことです。その期待に応える能力が自分に備わっているかどうかをしっかり考えなければなりません。その能力は、トレーニングで身につくものです。ただ、どのような能力が有利なのかは事前に知ることができません。もしわかってしまうと、みんながその能力を身につけてしまい、レア度が下がり、その能力では期待に応えることができなくなります。不確定性原理みたいですね。
トレーニングは時間が必要です。大学や大学院での勉学のなかで、自分のレア度を高める努力を継続しなければなりません。残念ながら、多くの学生はそのようには考えません。ということは、逆にそのように考えて実行に移せば、それだけでレア度が上がるわけです。ちなみに、僕は学生時代にそう考えて実行しました。ただ、その時の努力は直接は役に立ってません。でも、陰に陽に影響はあると思います。

こういう議論をする就職セミナーは聞いたことがありません。

2018年5月12日土曜日

西川式微分方程式6章


微分方程式の解法あれこれ


このテキストの本論はすでに終了していますが、微分方程式を解くテクニックはまだまだあります。普通の微分方程式の教科書に倣い、いろんなパターンの解法を解説します。ただし、すべての解法を網羅するつもりはありません。よく目にする解法について、ちゃんと解けているかどうかを中心に議論します。

変数分離法

ほとんどの1次常微分方程式は解くことができます。その際に変数分離というテクニックが活躍します。その際の強力なテクニックが変数分離と呼ばれるものです。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}y-p\left(x\right)q\left(y\right)=0
\label{6-1}
\end{equation}
今まではyの代わりに$f\left(x\right)$を使ってましたが、そうするとややこしくなるので今回は$y$で許してください。ちょっとした変形を行うと次のようになります。
\begin{equation}
\frac{1}{q\left(y\right)}dy=p\left(x\right)dx
\label{6-2}
\end{equation}
両辺を積分すれば、解が得られます。このとき、$\frac{d}{dx}y=\frac{dy}{dx}$であり、微分要素を一つの変数のように扱っています。なんとなく自然な感じがします。確かに1階微分の場合は大丈夫なんですが、いつもこんな感じでOKかというとそうでもないので気をつけましょう。
1階の微分方程式の場合には、($\ref{6-2}$)式のように最終的に単純な積分に帰着できる場合があって、変数分離形と呼びます。現時点では抽象的なので変数分離がどのくらい役に立つかはピンとこないと思います。

1階線形微分方程式

次のような微分方程式を考えます。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}y+p\left(x\right)y=q\left(x\right)
\label{6-3}
\end{equation}
この微分方程式はかなり一般性を持つということがわかると思います。さて、この微分方程式は非同次なので、とりあえず同時形を考えます。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}y+p\left(x\right)y=0
\label{6-4}
\end{equation}
この微分方程式はすぐ解けます。というのも次のように変形し、$y$と$x$を左右に分けるのです。
\begin{equation}
\frac{1}{y}dy=-p\left(x\right)dx
\end{equation}
これは変数分離形の一種です。なので、両辺を積分すると解が得られます。すなわち、
\begin{equation}
\log{y}=-\int p\left(x\right)dx+C
\end{equation}
ただし、積分定数も考慮します。もうちょっとわかりやすい形にしておきましょう。
\begin{equation}
y=Ce^{-\int p\left(x\right)dx}
\label{6-7}
\end{equation}
このようなことができるのは、($\ref{6-4}$)式で$y$に関する項と$x$に関する項とを左右に分けることが可能であったということが重要です。

($\ref{6-3}$)式は非同次でした。なので、特殊解が存在するはずです。特殊解は無理やり見つけてやればよいということを第2章で論じました。その方法は何でもよいはずです。そこで、直観によって($\ref{6-7}$)式を少しいじった次の式を考えます。
\begin{equation}
y=r(x)e^{-\int p\left(x\right)dx}
\end{equation}
この式を($\ref{6-3}$)式に代入してみます。すると、次式が得られます。
\begin{equation}
e^{-\int p\left(x\right)dx}\frac{d}{dx}r\left(x\right)-r\left(x\right)p\left(x\right)e^{-\int p\left(x\right)dx}+p\left(x\right)r\left(x\right)e^{-\int p\left(x\right)dx}\\
=e^{-\int p\left(x\right)dx}\frac{d}{dx}r\left(x\right)=q\left(x\right)
\end{equation}
左辺第2項がうまく消えてくれました。ここから、
\begin{equation}
\frac{d}{dx}r\left(x\right)=q\left(x\right)e^{\int p\left(x\right)dx}
r\left(x\right)=\int{q\left(x\right)e^{\int p\left(x\right)dx}dx}
\label{6-10}
\end{equation}
となります。逆に、($\ref{6-10}$)式を満たす$r\left(x\right)$は($\ref{6-3}$)式の特殊解として使えるということです。この特殊解と同次解である($\ref{6-7}$)式と合わせたものが最終解となります。すなわち、
\begin{equation}
y=e^{-\int p\left(x\right)dx}\left\{C+\int{q\left(x\right)e^{\int p\left(x\right)dx}dx}\right\}
\label{6-11}
\end{equation}
これは一般には「公式」として知られているものです。このように導出は少し面倒ですが、基本に立ち返ればそれほど難しいものではありません。微分方程式を解くための基本が理解できていれば、説明に時間はかからないのですが、基本が理解できていないと、無理やり特殊解を持ってきてそれでOKとする根拠が示せません。だから、公式として説明なしに片付けてしまった方が楽だ、となってしまいます。そんな講義を受けると、解けることは解けるけどなぜ解けるのかはわからないし、解けたという確信も得られません。この公式を覚えろ、と言われた時点で、僕はその講義を放棄しました。

普通ならこれで終わりなんですが、もう少しだけ詰めておきましょう。($\ref{6-7}$)式や($\ref{6-10}$)式ではネイピア数の指数に不定積分があります。不定積分なので積分すると積分定数が付け加わりますが、どのように取り扱えばよいでしょう。簡単な方の($\ref{6-7}$)式からやっておきましょう。
\begin{equation}
\int p\left(x\right)dx=P(x)+D
\end{equation}
とすると、($\ref{6-7}$)式は
\begin{equation}
y=Ce^{-\int p\left(x\right)dx}=Ce^{-P(x)-D}=Ce^{-D}e^{-P(x)}
\end{equation}
となり、$e^{-D}$という定数が乗じられます。これは元々ある係数Cと区別できないので、ネイピア数の指数に現れる不定積分か生じる積分定数は無視して構わないと結論できます。少し複雑にはなりますが、($\ref{6-10}$)式の積分定数は$r\left(x\right)$の中に吸収できるので、これも無視できます。

ベルヌーイの微分方程式

($\ref{6-11}$)式はとても強力なので、導出する手間を惜しんで暗記するくらいでよいということで、通常の講義では「公式」として示されています。前節で示したように導出は難しくないのですが、特殊解と一般解の関係をきちんと説明しないと、導出の際に確信が持てません。説明する側としては、つっこみが怖いので避けたいところです。おそらくそのような後ろ向きの理由によって導出が議論されないんでしょうね。
導出の問題があるものの、前節の「公式」はとても強力です。そのままでも十分強力なのですが、さらに発展形も存在します。その発展形の一つにベルヌーイの微分方程式と呼ばれるものがあります。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}y+p\left(x\right)y=q\left(x\right)y^n
\label{6-14}
\end{equation}
nが0の時は($\ref{6-3}$)式と同じです。nが1の時の右辺は左辺第2項とまとめることができ、同次形の($\ref{6-4}$)式と同じになります。それ以外でも解けるというのがベルヌーイの微分方程式の重要な点です。
テクニックとしては、($\ref{6-14}$)式を無理やり($\ref{6-3}$)式の形にしてあげるということです。具体的には、$z=y^{1-n}$という新たな変数を導入します。これを$y$で微分します。
\begin{equation}
\frac{dz}{dy}=y^{-n}
\end{equation}
ここから、$y^ndz=dy$として、($\ref{6-14}$)式に代入します。
\begin{equation}
y^n\frac{dz}{dx}+p\left(x\right)y=q\left(x\right)\frac{dy}{dz}y^n
\frac{dz}{dx}+p\left(x\right)y^{1-n}\\
=q\left(x\right)
\frac{dz}{dx}+p\left(x\right)z=q\left(x\right)
\end{equation}
これは($\ref{6-3}$)式と同じ方法で解くことができます。このような変形は($\ref{6-14}$)式の形式であれば必ず可能です。逆に、このような変形が可能な特別な形が($\ref{6-14}$)式というわけです。この導出に見られるように、nは整数以外でも大丈夫ということがわかります。
ベルヌーイの微分方程式のように、解けるタイプに変形可能な特別な形式の微分方程式はまだまだ存在します。しかしながら、それらの各論は普通の微分方程式の教科書に書いてあって、僕が改めて議論しても似たり寄ったりにしかなりません。であれば、のこりの部分は他の教科書に任せることにします。

演算子法

特性方程式を使うと、機械的に微分方程式を解くことができます。その背景にはフーリエ変換やラプラス変換があり、微分を変数で置き換える根拠になっています。それをさらに発展させることもできます。
\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2}y+a\frac{d}{dx}y+by=q\left(x\right)
\end{equation}
このような微分方程式があった場合、特性方程式では$\frac{d}{dx}$を$t$とかで置き換えて、同次解を求めました。$\frac{d}{dx}$はある種の演算子$D$だと思って、次のように置き換えてみます。
\begin{equation}
D^2y+aDy+by=\left(D^2+aD+b\right)y=q\left(x\right)
\label{6-18}
\end{equation}
もし、ここから
\begin{equation}
y=\frac{1}{D^2+aD+b}q\left(x\right)
\end{equation}
って出来たらとてもラッキーな気がしませんか?そういうことが可能かどうか、可能ならどういう原理だろうか、というのが今回のお題です。
もっと簡単な場合を検討してみましょう。いろんなものをそぎ落として次の式なら簡単です。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}y=q\left(x\right)
\label{6-20}
\end{equation}
これは、簡単に積分出来て、
\begin{equation}
y=\int{q\left(x\right)dx}
\label{6-21}
\end{equation}
です。一方、演算子$D$を使うと($\ref{6-20}$)式は$Dy=q\left(x\right)$なので、
\begin{equation}
y=\frac{1}{D}q\left(x\right)
\label{6-22}
\end{equation}
($\ref{6-21}$)式と($\ref{6-22}$)式は同じはずですから、$\frac{1}{D}$という演算は積分だとわかります。一方、($\ref{6-20}$)式のフーリエ変換は、
\begin{equation}
i\omega Y\left(\omega\right)=Q\left(\omega\right)
\end{equation}
なので、
\begin{equation}
y=\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{i\omega}Q\left(\omega\right)\right]
\end{equation}
ここから、($\ref{6-22}$)式において、$D$は$i\omega$、フーリエ変換・逆フーリエ変換が省略されているということがわかります。
さて、もう少し難しい形である
\begin{equation}
Dy+by=q\left(x\right)\\
y=\frac{1}{D+b}q\left(x\right)
\end{equation}
を考えてみましょう。$\frac{1}{D}$は単純な積分ですが、定数の補正が付いているとどのような演算なのか見えにくくなります。でもフーリエ変換・逆フーリエ変換が介在すると考えると、
\begin{equation}
y=\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{i\omega+b}Q\left(\omega\right)\right]=\int_{-\infty}^{\infty}{\frac{1}{i\omega+b}Q\left(\omega\right)e^{i\omega x}d\omega}
\end{equation}
ここで、$i\omega+b=iq$とすると、$q=\omega-ib$
\begin{equation}
y=\int_{-\infty}^{\infty}{\frac{1}{iq}Q\left(q+ib\right)e^{i\left(q+ib\right)x}dq}=\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{iq}Q\left(q+ib\right)e^{-bx}\right]
\end{equation}
ここで、
\begin{equation}
Q\left(q+ib\right)=Q\left(q\right)\otimes\delta\left(q+ib\right)
\end{equation}
であることを考慮すると、
\begin{equation}
\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{iq}Q\left(q+ib\right)e^{-bx}\right]=
\mathcal{F}^{-1}\left[\frac{1}{iq}Q\left(q\right) \otimes\delta\left(q+ib\right)\right] e^{-bx}
\end{equation}
\begin{equation}
y=\left\{\int{q\left(x\right)e^{bx}dx}\right\}e^{-bx}
\label{6-30}
\end{equation}

さらに、($\ref{6-18}$)式は演算子を用いて、
\begin{equation}
y=\frac{1}{D^2+aD+b}q\left(x\right)=
\left\{\frac{1}{D+c_1}+\frac{1}{D+c_2}\right\}q\left(x\right)
\end{equation}
というように分数の和に変換できるので、($\ref{6-30}$)式と同じように積分が可能です。このように微分演算子Dをあたかも変数のようにして微分方程式を解くテクニックを演算子法あるいは逆演算子法と呼びます。

このままでは($\ref{6-30}$)式に残る積分がなかなか歯ごたえがありますが、$q\left(x\right)$が$e^{\alpha x}$という特別な形の場合にはとても簡単になります。すなわち、
\begin{equation}
\left\{\int{q\left(x\right)e^{bx}dx}\right\}e^{-bx}=\left\{\int{e^{\alpha x}e^{bx}dx}\right\}e^{-bx}\\
=\frac{e^{\left(\alpha+b\right)x}}{\alpha+b}e^{-bx}=\frac{e^{\alpha x}}{\alpha+b}
\end{equation}
ここで、αに関しては複素数もOKだし、指数の和もOKです。つまり、三角関数もOKということです。
もちろん、この方法は特殊解を求めるものですので、同次解は別途計算し、和の形で追加されます。さて、$q\left(x\right)$が$e^{\alpha x}$の場合は、特殊解を$Ce^{\alpha x}$と決め打ちしてもよさそうです。すると、
\begin{equation}
Dy=C\alpha e^{\alpha x}=\alpha y
\end{equation}
になります。ここから、$D=\alpha$と短絡します。これを($\ref{6-18}$)式に代入すると、
\begin{equation}
y=\frac{1}{\alpha^2+a\alpha+b}e^{\alpha x}=Ce^{\alpha x}
\end{equation}
ここから、$C=\frac{1}{\alpha^2+a\alpha+b}$と求まります。さて、($\ref{6-30}$)式はとても汎用性が高いものですが、積分が残っていて、うまい具合に積分できるかは未確定です。一方、$q\left(x\right)$が指数の形だと、とても単純になるので、こちらの方が使い勝手が良いという事情があります。なので、演算子法というと、最後に紹介した方法を指す場合があります。これも、途中の考え方が一切失われて、省略形だけが劣化コピーとして伝承された例だと僕は思います。

数値計算

微分方程式には線形以外に非線形もあります。非線形の場合は解の和が自動的に解になることはないので、すべての解を網羅的に列挙することは極めて困難です。というかほとんど不可能です。その代り、具体的に数値を代入して解くということがしばしば行われます。数値計算なんて呼ばれますが、ある場合にはシミュレーションとも呼ばれます。というのも微分方程式がある現実的な実験系を想定している場合、その方程式を解くということは、想定している実験系の計算機実験にほかならないからです。

さて、微分方程式を数値計算によって解くにはどうしたらよいでしょう。基本的な考え方は難しくありません。$dx$を非常に小さい値だと思って、式の評価を繰り返すというのが基本です。例えば、($\ref{6-20}$)式だと、$dy=q\left(x\right)dx$なので、すごく小さな$dx$に対して、すごく小さな$dy$が得られます。それらの$dx$と$dy$に対して、以下の操作を繰り返します。
\begin{equation}
y\gets y+dy\\
x\gets x+dx
\end{equation}
このような式変形を「差分化」と呼びます。さて問題はどのくらい小さな$dx$を使えばよいか、ということです。その議論はシミュレーションが盛んな流体力学の分野で真剣に議論されており、CFL条件あるいはクーラン条件として知られています。端的に言えば、$\frac{dy}{dx}$は1より小さくなければならない、ということになります。ま、あくまでも目安で、精密な計算のためには刻み幅は小さければ小さいほど良いのです。ただし、小さすぎると計算時間がべらぼうに必要になります。

さて、この方法は数値積分で言うところの区分求積に相当します。というのも、微分方程式を解くとは、積分操作に近いからです。あるいは比喩的に「積分」と呼ぶことすらあります。数値積分では計算誤差を抑えるためにSimpson法なるものが使われます。そのSimpson法の微分方程式版とも言えるのがRunge-Kutta法です。詳しいことは、ググってください。ほとんどプログラミングにかかわることなのでこのテキストでは名前の紹介にとどめます。

偏微分方程式

微分方程式の中には変数が複数ある場合があります。よくあるのは、時間tと座標xを変数にしたもので、次のような拡散方程式は典型例です。
\begin{equation}
\frac{\partial}{\partial t}\phi\left(x,t\right)=D\frac{\partial^2}{\partial x^2}\phi\left(x,t\right)
\label{6-36}
\end{equation}
このとき用いている$\partial$は偏微分記号です。$\phi\left(x,t\right)$は$x$と$t$の関数ですが、$\frac{\partial}{\partial t}\phi\left(x,t\right)$では$t$に関してだけ微分を考えるという意味になります。これに対し、$\phi\left(x,t\right)$の全微分というのもあって、おおむね次のような関係を指します。
\begin{equation}
d\phi\left(x,t\right)=\frac{\partial}{\partial t}\phi\left(x,t\right)dt+\frac{\partial}{\partial x}\phi\left(x,t\right)dx
\end{equation}
偏微分、全微分の違いのために、偏微分記号を用いた微分方程式を偏微分方程式と呼びます。一方、全微分に基づく微分方程式は常微分方程式と呼びます。これまでの議論はすべて常微分方程式を取り扱ってきました。というのも、1変数の関数では偏微分を考える必要がないからです。ここから、偏微分方程式というのは多次元関数を取り扱う際に重要になることがわかります。
さて、($\ref{6-36}$)式を解くための一般解ですが、今まで取り扱ってきたものは1変数の関数がほとんどでしたので、なかなかピンとこないと思います。というか、境界条件によってはそのような一般解がないこともあります。ということでフーリエ変換やラプラス変換を考えてみましょう。ラプラス変換は1次元じゃないと積分区間の問題が生じるので使いにくいという問題があります。するとフーリエ変換が残ります。ただし、フーリエ変換も1次元だったのでこれを2次元以上に拡張します。
\begin{equation}
\mathcal{F}\left[\phi\left(x,t\right)\right]=\iint{\phi\left(x,t\right)e^{-i\left(\omega t+qx\right)}dtdx}
\end{equation}
詳細は省きますが、ネイピア数の指数部が内積の形になります。これを用いると($\ref{6-36}$)式は次のようになります。
\begin{equation}
i\omega\Phi\left(q,\omega\right)=-Dq^2\Phi\left(q,\omega\right)
\end{equation}
ここから、$i\omega=-Dq^2$となります。さらに解き進めるには境界条件等が必要になります。そしてその点が偏微分方程式の特徴でもあります。境界条件がはっきりしていないと途中までしか計算を進めることができないのです。

偏微分方程式を取り扱う際に特に重要なのは変数分離形です。もし$\phi\left(x,t\right)=X\left(x\right)T\left(t\right)$である場合、($\ref{6-36}$)式は次のようになります。
\begin{equation}
X\left(x\right)\frac{\partial}{\partial t}T\left(t\right)
=DT\left(t\right)\frac{\partial^2}{\partial x^2}X\left(x\right)\\
\frac{1}{T\left(t\right)}\frac{\partial}{\partial t}T\left(t\right)
=\frac{D}{X\left(x\right)}\frac{\partial^2}{\partial x^2}X\left(x\right)
 \label{6-40}
\end{equation}
これが偏微分方程式における変数分離形です。$x$と$t$は基本的に独立変数なので自由に変化します。もし$x$を一定値にして$t$を変化させたとき左辺の変化と右辺の変化が常に同じであるのには無理があります。そのようは無理があっても($\ref{6-40}$)式が成立するためには、($\ref{6-40}$)式は一定値である必要があります。すなわち、
\begin{equation}
\frac{1}{T\left(t\right)}\frac{\partial}{\partial t}T\left(t\right)=\frac{D}{X\left(x\right)}\frac{\partial^2}{\partial x^2}X\left(x\right)=\lambda
\end{equation}
$\lambda$は任意の定数です。大きさは境界条件から決まることが多いです。ここから、2つの微分方程式が得られます。。
\begin{equation}
\frac{\partial}{\partial t}T\left(t\right)=\lambda T\left(t\right)\\
\frac{\partial^2}{\partial x^2}X\left(x\right)=\frac{\lambda}{D}X\left(x\right)
\end{equation}
それぞれの式には偏微分記号がありますが、1変数なので常微分方程式として解いて構いません。このテクニックはシュレディンガーが水素原子様電子軌導を解いた際にも用いられました。
さて、この解法において、$\phi\left(x,t\right)=X\left(x\right)T\left(t\right)$と置いたことがポイントでした。このように考えるのは妥当でしょうか?それはわかりません。そのように置けない可能性は否定できません。偏微分方程式の特徴としてすべての可能性を網羅しつくすことはとても難しいのです。そのため、「偏微分方程式を解け」という問題はテストに出にくいのです。だからと言って、重要でないというわけではありません。

コメント

微分方程式の一般的な講義に対するアンチテーゼとしてこのテキストを作りました。天下り式の解法をひたすら暗記するという方法ではなく、きちんとした解法の「原型」を示し、他の解法を「原型」に対応させて理解するという方法を取りました。その試みは成功していると僕は思っています。僕の中ではすべての事柄が矛盾なく説明できていると思っています。一部にわかりにくい部分があるかもしれませんが、とりあえずはこれで完成です。
普通は行わないような細かな議論も丁寧に含めるようにしました。その結果、テキスト内で取り扱う内容が厳選されることになりました。特に、種々の解法では多くのものを割愛しました。ただ、第2章で級数展開による解法を紹介しており、それでかなりの解法をカバーするはずです。「解けるものしか解けない」のだから解けるものだけを議論するという立場はあまりにも乱暴だと思います。今解けないとしても、未来永劫解けないとは限りません。このテキストでの議論は、新たに発見されるかもしれない級数展開をカバーするという点で、他のテキストは一線を画していると思います。
惜しむらくは、例題がほとんどないことです。もし、書籍として出版する機会があれば、その部分を増補したいですね。

僕は決して数学者ではありませんし、特別に微分方程式を勉強したわけでもありません。テキストの随所に書いていますが、僕はむしろ落ちこぼれです。落ちこぼれだからこそ、しつこく考え続けられたのだと思っています。僕は10年以上かけて、ゆっくりと理解に至りましたが、ちゃんとした教科書あるいは指導者がいれば、そんな苦労は必要なかったと悔しく思っています。それがこのテキストを作成した動機です。
僕が微分方程式の解法にある程度の確信を得たのは、フーリエ変換を身につけたときです。フーリエ変換を使うとある種の微分方程式を演繹的に解くことができます。しかしながら、そうでないものもあります。あるいは、通常の解法はフーリエ変換とは違うものも多いですよね。
次の理解の段階に達したのは、「微分方程式の解が張る空間」というフレーズの意味が直観できたときです。線形微分方程式の一般解は直交関数系の線形和になっていて、ベクトルとの類似性から多次元空間とみなせるというのがフレーズの意味です。それが一般的に成立すると先のフレーズは暗に主張します。多くの特殊関数と呼ばれる級数は微分方程式の解として得られており、それらには直交性があります。つまり、数学公式集に載っている級数はことごとく微分方程式の解になり得るということです。いや、本当は、そういう特性があるからこそ、数学者たちはそのような級数を探し続け、その成果を公式集に収めているのだとわかりました。であれば、最初からそのように教えてほしかった、というのが正直なところです。シュレディンガーはそう理解していたから、ルジャンドル陪関数と球面調和関数を選択することができたのです。
そういうからくりに自力で到達しなければならない理由は見当たりません。このテキストにあるように、それほど多くない分量の議論で説明し、理解できるのです。そのような教科書や教授法が見当たらないのは人類の損失だと思います。

微分方程式が理解出来たら、次は量子力学にチャレンジしたくなりますよね。僕は学生のころ、微分方程式が理解できなかったので量子力学もあきらめました。微分方程式が解けるなら、量子力学だって理解できるかもしれません。
もちろん、量子力学もこんな調子で「再構築」しています。ただ、一般的な流儀からあまりにかけ離れているので、細部の詰めが完了していません。という状態が10年にもなっているので、何とかしないといけないなぁ、とは思っています。でも、僕の専門は微分方程式でも量子力学でも何でもないということは知っておいてください。