フーリエ変換
フーリエ変換を勉強すると、懐かしの例題1を一般解の導入なしに、決定論的に解くことができます。ようやく、とりあえずの目標を達することができます。
フーリエ級数の複素数への拡張
フーリエ級数展開をもう一度書くと、
\begin{equation}
f\left(x\right)=a_0+\sum_{n=1}^{\infty}\left\{a_n\cos{nx}+b_n\sin{nx}\right\}\label{fourierseries}
\end{equation}
でした。オイラーの公式、$e^{in\theta}=\cos{n\theta}+i\sin{n\theta}$を使うと、
\begin{equation}
\cos{n\theta}=\frac{e^{in\theta}+e^{-in\theta}}{2},\ \ \ \sin{n\theta}=-i\frac{e^{in\theta}-e^{-in\theta}}{2}
\end{equation}
なので、これを ($\ref{fourierseries}$)式に代入すると、
\begin{equation}
f\left(x\right)=a_0+\sum_{n=1}^{\infty}\left\{\frac{a_n-ib_n}{2}e^{inx}+\frac{a_n+ib_n}{2}e^{-inx}\right\}
\end{equation}
さらに、$n$を$\pm \infty$で考えて
\begin{equation}
f\left(x\right)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}{c_ne^{inx}}\label{complexfourier}
\end{equation}
と、簡単になりました。$c_n$は一般的には複素数です。$f\left(x\right)$が実数関数の場合には、$c_n=c_{-n}^\ast$という条件が付きます。($\ref{complexfourier}$)式は($\ref{fourierseries}$)式の単純な拡張なので、$c_n$の求め方の基本は、($\ref{fourierseries}$)の$a_n$と$b_n$とほとんど同じですが、複素共役を使います。すなわち、
\begin{equation}
c_n=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}{f\left(x\right)e^{-in\theta}dx}
\end{equation}
ただし、$n=0$の場合は例外になります。これによって、フーリエ級数が複素数にまで自然に拡張されました。こういうのを「解析接続」と言います。複素数への拡張方法は、議論のやり方で変化し得ます。なので、ほかの方法で複素数に拡張できるかもしれません。でも、このやり方が最も広く受け入れられていますし、使い勝手もよいのです。
周期Lの導入
($\ref{complexfourier}$)式では、基本周期が$2\pi$で固定でした。基本周期を$L$にしましょう。そのためには、$x\gets\frac{2\pi}{L}x$の変換をします。もちろん積分素も同様の変換を受けます、$dx\gets\frac{2\pi}{L}dx$。したがって、($\ref{complexfourier}$)式は、
\begin{equation}
c_n=\frac{1}{L}\int_{-L/2}^{L/2}{f\left(x\right)e^{-i\frac{2\pi nx}{L}}dx}
\end{equation}
となります。注意点は、指数の部分が負になっていることです。係数を求める際には、直交関数系を使うわけですが、複素数に関して「内積」の拡張する際に、ちょっとした理由で共役複素数との積を使う、というルールが追加されます。これを説明するには、複素数と内積についての考察が一揃い必要で、それはそれでちょっとしたストーリーになります。以上より、($\ref{complexfourier}$)式は、
\begin{equation}
f\left(x\right)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}{c_n e^{i\frac{2\pi nx}{L}}}\label{generalfourier}
\end{equation}
となって、どのような周期関数にも対応できるようになりました。
級数から積分へ
さて、$q_n=\frac{2\pi n}{L}$を定義すると、$q_n$は、$\Delta q=2\pi L$の間隔でとびとびの値になっていることがわかります。いま、周期Lをどんどん大きくすることを考えてみましょう。すると、$\Delta q$はどんどん小さくなって、そのうち、連続にみなせます。ただ、($\ref{generalfourier}$)式のsummationはたくさんの項が関与することになるので、発散するかもしれません。それを防ぐために、$\Delta q$を掛けて、「面積」みたいなもので、代用しましょう。すなわち、形式的に
\begin{equation}
f\left(x\right)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}c_n e^{iqnx} \Delta q \label{7}
\end{equation}
さらに、$L$を大きくして、$\infty$を考えると、いよいよ$q_n$は連続な値になって、$q$としましょう。Summationは積分となり、$\Delta q$は積分素$dq$なります。すると($\ref{7}$)式は、
\begin{equation}
f\left(x\right)=\int_{-\infty}^{\infty}F\left(q\right)e^{iqx}dq\label{8}
\end{equation}
さて、($\ref{8}$)式は逆フーリエ変換の式であり、$F\left(q\right)$ は$f\left(x\right)$のフーリエ変換と呼ばれます。ちなにみ($\ref{8}$)式には、比例係数の違いを考慮したいろいろな流儀があるのですが、僕は、簡単のために比例係数なしを使います。先に逆フーリエ変換が出てきました。フーリエ級数の係数の求め方と同じように考えると、フーリエ変換が次のように導かれます。
\begin{equation}
F\left(q\right)=\int_{-\infty}^{\infty}f\left(x\right)e^{-iqx}dx
\end{equation}
実際に計算する際は、オイラーの公式で展開することが多いです。すなわち、
\begin{equation}
F\left(q\right)=\int_{-\infty}^{\infty}f\left(x\right)\cos{qx}dx+i\int_{-\infty}^{\infty}f\left(x\right)\sin{qx}dx
\end{equation}
フーリエ変換ではしばしば次のような変換を表す記号を使うことがあります。
\begin{equation}
F\left(q\right)=\mathcal{F}\left[f\left(x\right)\right]
\end{equation}
フーリエ変換の性質
フーリエ変換は単なる積分変換です。言い換えると、足し算でできています。なので、足し算に関するすべての性質を継承します。平たく言うと、僕たちに馴染みの演算規則の多くが使えて便利ということです。例えば、
\begin{equation}
k\mathcal{F}\left[f\left(x\right)\right]=\mathcal{F}\left[kf\left(x\right)\right]\\
\mathcal{F}\left[f\left(x\right)\right]+\mathcal{F}\left[G\left(x\right)\right]=\mathcal{F}\left[f\left(x\right)+g\left(x\right)\right]
\end{equation}
さらに、フーリエ変換と逆フーリエ変換は、1対1の対応を保証します。
\begin{equation}
f\left(x\right)=\mathcal{F}^{-1}\left[\mathcal{F}\left[f\left(x\right)\right]\right]
\end{equation}
この性質は1対1写像として知られていますが、このような性質を持つ場合、とても便利なことがあります。すなわち、フーリエ変換後に行った操作と、フーリエ変換しない場合の操作と対応付けることができます。別の言い方をすると、ある演算はフーリエ変換した状態だととても簡単になるので、その演算を実行するためにわざわざフーリエ変換して、演算実行後に逆フーリエ変換した方が楽、という場合があって、そういうことが自在にできる、ということです。具体的には、コンボリューションと微分が、フーリエ変換によって簡単になります。今は説明しませんがコンボリューションという演算は関数同士の積と強く結びつきます。コンボリューションを$\otimes$で書き表すと、以下の関係があります。
\begin{equation}
\mathcal{F}\left[f\left(x\right)\right]\otimes\mathcal{F}\left[G\left(x\right)\right]=\mathcal{F}\left[f\left(x\right)g\left(x\right)\right]\\
f\left(x\right)\otimes g\left(x\right)=\mathcal{F}^{-1}\left[\mathcal{F}\left[f\left(x\right)\right]\mathcal{F}\left[G\left(x\right)\right]\right]
\end{equation}
ちなみに、逆フーリエ変換は、
\begin{equation}
f\left(x\right)=\mathcal{F}^{-1}\left[F\left(q\right)\right]=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}{F\left(q\right)e^{iqx}dx}\label{invft}
\end{equation}
となります。係数$\frac{1}{2\pi}$はちょっと邪魔な気がしますが、そういうのがちょっとつくということだけ覚えておきましょう。
微分方程式のフーリエ変換による解法
フーリエ変換を利用すると、微分がとても簡単になります。$f\left(x\right)$の微分を考えてみましょう。$f\left(x\right)$の数式がわからないと普通は手も足も出ません。しかし、$f\left(x\right)$が($\ref{invft}$)式のように逆フーリエ変換の形で与えられるということを利用し、$f\left(x\right)$を直接微分する代わりに($\ref{invft}$)式を微分します。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f\left(x\right)=\frac{1}{2\pi}\frac{d}{dx}\int_{-\infty}^{\infty}{F\left(q\right)e^{iqx}dx}=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}{F\left(q\right)\frac{d}{dx}e^{iqx}dx}\\
=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}{iqF\left(q\right)e^{iqx}dx=\mathcal{F}^{-1}\left[iqF\left(q\right)\right]}
\label{dFT}
\end{equation}
このようにフーリエ変換を用いると$f\left(x\right)$の具体的な数式がわからなくても形式的な微分が可能になり、微分記号をなくすことができます。
この性質を利用すると、一般解の利用なしに、微分方程式を解くことが可能です。早速、懐かしの1章の例題1を解いてみましょう。
解法1-8
$\frac{d^2}{{dx}^2}f\left(x\right)=-a^2f\left(x\right)$の両辺をフーリエ変換する。
\begin{equation}
\mathcal{F}\left[\frac{d^2}{{dx}^2}f\left(x\right)\right]=\mathcal{F}\left[-a^2f\left(x\right)\right]
-q^2F\left(q\right)=-a^2F\left(q\right)
\end{equation}
非自明な$F\left(q\right)\neq 0$の解に対しては、$q=\pm a$。
すなわち、$F\left(q\right)$は$q=\pm a$の時だけ0でない関数である。
このように完全に演繹的に微分方程式の解が求まりました。これこそ、方程式を解くという感じです。ただし、最後の1行は少し注意が必要です。特定の場所だけ0でない関数というのは普通ではありません。このような関数を使うといろいろ便利であるとして、物理学者のDiracが導入したのが、δ関数です。δ関数は以下のように定義されます。
\begin{equation}
\delta\left(x\right)=\left\{\matrix{\infty&if\ x=0\cr0&elsewhere\cr}\right.
\end{equation}
値が$\infty$だと都合の悪いこともあるのですが、積分値が1であるということで$\delta\left(x\right)$の「高さ」を表します。すなわち、
\begin{equation}
\int_{-\infty}^{\infty}\delta\left(x\right)dx=1
\end{equation}
積分区間は形式的に$\pm\infty$としていますが、$\delta\left(x\right)$のほとんどの領域は0なので、実質的には$\delta\left(x\right)$が0でないところの近傍だけで十分です。
ちょっと見ただけでは使い道のなさそうな$\delta\left(x\right)$ですが、$\delta\left(x-a\right)$のようにすると、値を持つ区間を自由に設定することができます。この例では$x=a$で$\infty$になります。さらに、他の関数との積と組み合わせるととても重要な次の性質が得られます。
\begin{equation}
\int_{-\infty}^{\infty}\delta\left(x-a\right)f\left(x\right)dx=\int_{-\infty}^{\infty}\delta\left(x-a\right)f\left(a\right)dx=f\left(a\right)
\end{equation}
途中で$f\left(x\right)$を$f\left(a\right)$に書き換えていますが、これこそ$\delta\left(x-a\right)$の性質です。$\delta\left(x-a\right)$は$x=a$以外で0ですから、その部分の$f\left(x\right)$をどのように書き換えても結果に影響が出ないという理屈です。
これを使うと、解法1-8をさらに続けることができます。
解法1-8つづき
$F\left(q\right)$は$q=\pm a$の時だけ0でない関数であるので、
\begin{equation}
F\left(q\right)=C_1\delta\left(q-a\right)+C_2\delta\left(q+a\right)
\end{equation}
これを逆フーリエ変換することで次式のように$f\left(x\right)$が得られる。
\begin{equation}
f\left(x\right)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}{F\left(q\right)e^{iqx}dq}\\
=\frac{1}{2\pi}C_1\int_{-\infty}^{\infty}{\delta\left(q-a\right)e^{iqx}dq}+\frac{1}{2\pi}C_2\int_{-\infty}^{\infty}{\delta\left(q+a\right)e^{iqx}dq}\\
=\frac{1}{2\pi}C_1e^{iax}+\frac{1}{2\pi}C_2e^{-iax}
\end{equation}
このように今までの解の一般形がきちんと求まりました。
こんなことなら、最初からこのやり方を教えてほしいものですが、実はそうもいきません。というのもフーリエ変換は周期関数にはめっぽう強いのですが、そうでないものにはめっぽう弱いという性質があるのです。弱点の少ない解き方としてラプラス変換を用いた
解法が知られており、5章で紹介します。
微分定理と特性方程式
($\ref{dFT}$)式は微分に関する定理を表わしています。すなわち、$f\left(x\right)$を微分する代わりに、$F\left(q\right)$に$iq$を乗じるということです。これは、元々の世界とフーリエ変換の世界が1対1写像になっていて、それぞれの世界での演算規則が変化することを利用しています。特に、微分に関しては、フーリエ変換の世界は著しく容易になるという利便性があり、それを使って微分方程式を解くということです。1対1写像が保証されているので、どちらの世界の演算を使おうと自由で、必要に応じていったり来たりして構わないということを活用したテクニックです。
1階の微分が
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f\left(x\right)=\mathcal{F}^{-1}\left[ iq F\left(q\right)\right]
\label{generallinear}
\end{equation}
で表されるということは、n階の微分は
\begin{equation}
\frac{d^n}{dx^n}f\left(x\right)=\mathcal{F}^{-1}\left[ (iq)^n F\left(q\right)\right]
\end{equation}
となります。1章でも例示しましたが、同次の線形微分方程式の一般形をとりあえず、次のように考えます。
\begin{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n \frac{d^n}{dx^n} f\left(x\right) =0
\end{equation}
これをフーリエ変換すると、
\begin{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n (iq)^n F\left(q\right) =0
\end{equation}
$F\left(q\right)=0$は自明な解であり、$F\left(q\right)\ne 0$だけを問題としましょう。$F\left(q\right)\ne 0$というこうとを利用して、両辺を$F\left(q\right)$で除すると、
\begin{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n (iq)^n =0
\end{equation}
が得られます。いま、$q$はフーリエ変換の世界での横軸であり、実態はあいまいです。そのことを利用し、$iq=t$となる$t$を仮定します。すると、
\begin{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n t^n =0
\end{equation}
が得られます。これは、すなわち、特性方程式です。ここから、特性方程式の背後にフーリエ変換の影がうかがえます。1章でも議論したように、特性方程式は、一般解を $f\left(x\right)=Ce^{tx}$と決め打ちすることでもありました。これだと強引に感じますが、フーリエ変換を経由した説明なら、もう少し違和感が和らぎます。
最後に、ここに示した微分方程式の解法によって、すべての解を検討しつくしているかを考えてみましょう。というのも、僕たちは最後にδ関数を使いました。ここにあいまいさが残っていないかどうか確認しておかないといけないのです。
$F\left(q\right)$は連続関数をイメージしていましたが、2章で連続関数を棒グラフに見立てたように$F\left(q\right)$を短冊にして考えることができます。
\begin{equation}
F\left(q\right)=\lim_{\Delta q\rightarrow 0}\sum_{n=-\infty}^{\infty}F_n \delta\left(q-n\Delta q\right)
\end{equation}
こうすると、$F\left(q\right)$はどんな関数であっても構わなくなります。$F\left(q\right)$がδ関数の列だと考えれば、解法1-8の後半でδ関数を導入した理由を正当化できます。こういうわけで、フーリエ変換を使って微分方程式を解くと、すべての可能性を検討することになり、解の唯一性が担保されます。
すべての線形微分方程式について
($\ref{generallinear}$)式で線形微分方程式の具体例を示しましたが、この式があらゆる戦役微分方程式を網羅しているとは限りません。すなわち、($\ref{generallinear}$)式で表せない形式の線形微分方程式の存在を否定できません。そこで、微分方程式が線形であるという意味をフーリエ変換の世界で考えてみます。
フーリエ変換での演算規則をおさらいしておきます。
\begin{equation}
\mathcal{F}\left[f(x)+g(x)\right]=\mathcal{F}\left[f(x)\right]+\mathcal{F}\left[g(x)\right]
\end{equation}
\begin{equation}
\mathcal{F}\left[k f(x)\right]=k \mathcal{F}\left[f(x)\right]
\end{equation}
\begin{equation}
\mathcal{F}\left[f(x)g(x)\right]=\mathcal{F}\left[f(x)\right]\otimes\mathcal{F}\left[g(x)\right]
\end{equation}
ただし、コンボリューションは次式で表されます。
\begin{equation}
f(x)\otimes g(x)=\int f(x-x^\prime) g(x^\prime) dx^\prime
\end{equation}
ここから、コンボリューションは計算はやや複雑であるものの、積と和で表されることがわかります。であれば、コンボリューションに関して次のような演算規則が得られます。
\begin{equation}
f(x)\otimes \left(k g(x)\right]=k \left( f(x)\otimes g(x)\right)
\end{equation}
\begin{equation}
f(x)\otimes \left(g(x)+h(x)\right]=f(x)\otimes g(x) +f(x)\otimes h(x)
\end{equation}
ここから、$\otimes$という演算は、ほとんど積と同じだとわかります。そこで、$\otimes$を含む式をコンボリューション多項式と呼ぶことにします。積を複数繰り返す累乗のコンボリューションバージョンは、
\begin{equation}
f(x)\otimes f(x)=\overset{2}{\widetilde{f}}(x) \\
\overbrace{f(x)\otimes f(x)\otimes\dots\otimes f(x)}^n =\overset{n}{\widetilde{f}}(x)
\end{equation}
重要なことは、微分方程式を$f(x)$の多項式とみなすと、微分方程式のフーリエ変換はコンボリューション多項式になる、ということです。
\begin{equation}
D\left[f(X)\right]=0\\
\mathcal{F}\left[D\left[f(X)\right]\right]=C\left[F(q)\right]=0
\end{equation}
ただし、$D$や$C$はそれぞれ微分方程式とコンボリューション多項式を表します。$D\left[f(X)\right]=0$に対して$f_1(x)$と$f_2(x)$が解として得られたとします。もし$D$が線形だとすると、$f_1(x)+f_2(x)$も解であるはずです。$C$がコンボリューション多項式であるとすると、$C\left[F(q)\right]=0$の具体的な形式は次のようになるでしょう。
\begin{equation}
C\left[F(q)\right]=\sum_{n=1}^{N} k_n(q) \overset{n}{\widetilde{F}} (q)=0
\label{generalconvolution}
\end{equation}
ここで、$f_1(x)$と$f_2(x)$のフーリエ変換をそれぞれ$F_1(q)$と$F_2(q)$とします。すると、
\begin{equation}
\overset{2}{\widetilde{F_1(q)+F_2(q)}}=\overset{2}{\widetilde{F_1}}(q)+\overset{2}{\widetilde{F_2}}(q)+2 F_1(q)\otimes F_2(q)
\end{equation}
となります。これはすなわち、$C\left[F(q)\right]=0$において$\overset{2}{\widetilde{F}}(q)$の項があると、$F_1(q)\otimes F_2(q)$に関する項が余ってくることを意味します。さらに高次のコンボリューション項があれば、もっとひどいことになるでしょう。なので、線形であるためには、($\ref{generalconvolution}$)式において$N=1$でなければならないことがわかります。従って、微分方程式が線形である場合の($\ref{generalconvolution}$)式は、
\begin{equation}
C\left[F(q)\right]=k_1(q) F(q)=0
\end{equation}
となり、$F(q)\ne 0$が存在しうる非自明解では、$k_1(q)$が恒等的に0であることが要請されるということがわかります。ということは、逆にたどると、線形な微分方程式は($\ref{generallinear}$)式になっているはずだ、とわかります。
20世紀半ばまで、微分方程式をアドリブで解くというのは、科学者の必修スキルでした。しかし、微分方程式の理解が進み、解けるタイプと解けないタイプが明らかとなり、解けないタイプは解く努力をするだけ無駄だと考えるようになったのだと思います。そのため、僕たちは解けるタイプの解き方だけしか学ばなくなり、解き方の原理原則が教科書から消えてしまいました。
20世紀後半になると、計算機が発達し、無理やり微分方程式を解くことができるようになりました。その結果、解けないタイプに関する議論は一層価値を失いました。その議論には、普通は解けないんだけど例外的に解けるようなタイプも実は含まれます。そういう議論はいつか役に立つかもしれませんが、すでに多くのノウハウが失われており、そのような微分方程式を解ける科学者は稀少となっています。それは大きな後退・退化だと僕は思います。
ここまで読み進めるとわかったと思いますが、このテキストはかなり丁寧に書いてあるので量が少し多くなっていますが、本質的な議論はそれほど大規模ではありません。フーリエ級数・変換に関する基礎知識があれば、半分くらいの議論を省略できます。2、3の特殊な解法の解説をあきらめれば、このテキストでの議論を通常の講義に組み込めると僕は思います。その効果は多分絶大です。
次章ではその効果を、物理の一般論を例を交えて議論します。