「狭い門から入りなさい。滅びに至る門は大きく、その道は広く、そこから入って行く者が多いのです。」(新約聖書「マタイ福音書7章13節」)
こんな話をします
スタート:宇宙を記述する代数の候補であるS7
ゴール:ミンコフスキー計量0の条件がS7代数の部分空間として量子力学を与える
ポイント①:S7の非結合性は要素還元主義を破壊し、科学が成立しなくなる
ポイント②:アルティンの定理により結合性を取り戻す
ポイント③:アルティンの定理の条件を変形すると、ミンコフスキー計量0の条件で、非可換代数が得られる。
ポイント④:非可換代数では余積代数=量子代数が成立する。
S7代数と物理
ポエム解説②基礎公理で解説したように、フルヴィッツの定理と素粒子の対称性から、宇宙を記述するための代数として、唯一の候補がS7だ、という結論に至っています。S7はノルムが1の8元数です。8次元の超球面上の点がS7、というのが幾何学的なイメージです。8次元なんて想像を超えている、という文句はあるかもしれません。なので、普通に3次元の球面のイメージで代用してもらって大丈夫です。
S7上の演算はS7になることが保障されています。この状態は、代数的に閉じている、というように表現されることもあります。これは宇宙が概念的に首尾一貫していることを保証します。演算のたびに宇宙から飛び出して、引き戻されるみたいな不格好なことは最初からありません。聞いてます?ローレンツ変換さん!
S7は超球面上の点なので、球対称性があります。出ましたね。対称性。僕たちが知っている物理法則の多くはエネルギーや運動量が保存するという原理に基づいて議論されます。ドイツ出身の女性数学者エミー・ネーターは、対称性と保存則が1対1で対応するということを証明しました。このネーターの定理は、物理学のあり方を根本的に改革しました。対称性があれば物理学を構築できる可能性が出てくるのです。
S7代数は素粒子の対称性を内包しており、素粒子の振る舞いをきちんと説明できる可能性はあります。特にS7に埋め込まれているFANO平面には位数3の巡回対称性があります。素粒子の世代とか、色価と呼ばれる 素粒子の内部量子数はいずれも3という特別な数の性質を持っています。3というキーワードは普通の代数構造からは直接現れてこないという厄介な数で、多くの理論物理学者の頭を悩ました問題です。その3の謎がS7代数から自然に導出されそうで、とても希望が持てます。
相互作用=2項演算
僕らが、宇宙を理解する、と言ったとき、当然物理の法則の集合体として宇宙を記述する、という意味を頭の中に浮かべています。物理の法則は、基本的に「保存則」あるいはそこからの導出で構成されます。根底には「保存則」があるわけです。ネーターの定理によれば、対称性と保存則は1対1対応があるとされるので、対称性が欲しいところです。S7ではノルム1という対称性があり、物理が成立する下地を備えています。
しかしながら、ノルム1の対称性だけでは、なかなか物理が立ち上がってきません。そこで、物理とは何かということを少し掘り下げることにしましょう。僕らの知る物理というのは保存則が基本になっています。保存則というのは、系が変化したとき何かが保存する、という意味があります。系の状態は「数」に対応するわけですから、「数」が変化したとき何かが保存していることを保存則と言う訳です。「数」は勝手には変化しませんから、何らかの都合で変化する必要があります。代数的には「演算」しかありません。
通常、「演算」には「2項演算」と「単項演算」があります。単項演算は定数を乗じるみたいな演算ですが、それでは物理を説明することはできません。物理は主に2項演算で記述されることになります。2項演算というのは2の状態間の演算です。あるいは、2つの項の間の相互作用とも言えます。S7が宇宙を記述する代数の候補であるなら、S7上の2項演算について理解する、ということがセントラルドグマになります。
総括すると、物理は、2項演算の連続で表される、という風に考えることができます。つまり、状態をA,B,Cで表せば、ABCのような演算の連続が物理となるわけです。
S7代数の致命的欠点
S7には致命的な欠点があります。S7の代数は非結合的なのです。非結合性とは、(AB)CとA(BC)が同じとは限らないという演算規則です。ご存知のように僕らが知っている普通の演算はこのようにはなりません。(AB)CとA(BC)は必ず同じ値になります。その性質を結合性と呼びます。演算規則としての非結合性はそれほど大きな問題とはみなされないかもしれません。でも、僕らが議論しているS7の代数は宇宙を記述する物理の基本になります。非結合性を物理学あるいは科学の観点から眺めると、致命的な問題を引き起こします。
科学の概念の基礎には、客観性とか再現性とか検証可能性とかそういうものが成立するという前提があります。研究する際には、現象の要素を切り出して、各要素を検証して、再び組み立てて全体像を理解する、という要素還元主義が用いられます。これは客観性や再現性が担保されている時には強力な手法となります。もし宇宙が非結合性代数で記述されていると、部分を切り出して検証して、検証された部分を再び組み立てて全体像を理解するという手法ができなくなります。先ほどの例だと、ABCの演算について、ABとBCの各要素からできていると考えて、各要素の仕組みが解明されたとしても、(AB)CとA(BC)の違いによって、全体を構成することができません。
僕らの目的の1つは科学の成立条件を探すこと
S7の非結合性では科学がまともに成立しません。僕たちの唯一の希望がS7で、そのS7は科学の概念を破壊してしまうのです。一見手詰まりに見えますが、諦めてしまえば、そこで試合終了です。S7は僕らに残された最後の希望なのです。
行列は積の順番を入れ替えることができないという非可換という性質を持っています。でも特別な条件を満たすと、積の順序を入れ替え可能な、可換の性質を取り戻すことができます。例えば、複素数は行列を用いて書き直すことができますが、積の順序を入れ替えることができます。同じように非結合なS7でも、特別な条件下では結合性を取り戻すことができるかもしれません。このような性質を、部分空間あるいは部分代数と呼びます。
(注)ここから一般的な物理学とは大きく違ってきます。
S7において、どういう時に結合性が取り戻せるかということを研究した人がいました。名前をエミール・アルティンさんと言います。その定理はアルティンさんの名前を取ってアルティンの定理と呼ばれています。
アルティンの定理では${1-e_7^2=2}$の条件を満たすと、残りの部分空間には結合性が復活する、とされています。${e_7}$は虚数単位なので、${e_7^2=-1}$です。${e_7}$の7には特に意味はありません。ですので、アルティンの定理の条件は、8元数の7つの虚数軸のうち一つを選択する、という意味になります。2項演算では、2項の虚数軸の1つが共通の場合に、結合性が復活する、という意味になります。
ちなみに、ミンコフスキー計量は以下の通りです。
$${d\tau^2=c^2 dt^2 -dx^2-dy^2-dz^2}$$
ただし、${d\tau}$は固有時間で、ミンコフスキー計量における距離になります。ということなので、${d\tau =0 }$がミンコフスキー計量0の条件ということになります。ここで、${(dx/dt, dy/dt, dz/dt)}$を${e_7}$の方向と定義すれば、アルティンの定理の条件がミンコフスキー計量0と一致することになります。言い換えると、ミンコフスキー計量0のときに、S7では結合性が復活する、ということです。ただし、非結合性が解消したとしても、依然として非可換で、厄介なことには変わりありません。
ポエム解説①特殊相対論との符牒
ポエム解説のシリーズの1番目、特殊相対論の話の結論として、ミンコフスキー計量0で時空の2点がつながることで、「同時」の概念でつながることができる。空間的に2点がどれだけ離れていても、ミンコフスキー計量が0なら、時空的な距離は0であり、2点は同時かつ瞬時に相互作用でき、量子力学が成立する、と指摘しました。
量子力学の説明にはいくつか流儀があります。一つはシュレーディンガー方程式で、これはもっとも有名です。ちょっと面倒なのですがハイゼンベルグの行列力学、という流儀も有名です。もう一つの流儀が、生成子・消滅子をベースにした余積代数の流儀です。余積代数というのは別名を量子力学と呼びます。非可換代数において、非可換の度合いを表す余積${[A,B]=AB-BA}$が定義され、これが量子力学を説明します。余積代数は量子代数とも呼ばれます。
つまり、非可換な代数は量子力学を生み出すのです。アルティンの定理によってミンコフスキー計量0の条件下で取り戻された結合性の部分空間は依然として非可換であり、そこでの代数は余積代数の形式をとります。つまり、量子力学が成立するのです。
「おお!これこそ奇跡!特殊相対論は${S^7}$に物理を取り戻し、量子力学を残すのだ。」
アルティン切断の説明が弱いらしい
AIに一連の記事の評価をさせると、アルティンの定理の条件とミンコフスキー計量0との同値性に関して数学的根拠が乏しいと言われました。あと、可除代数の公理が独善的?と言われました。
可除代数を公理に据えるのは一般的ではありません。宇宙を記述する代数が可除代数でない場合、勝手に物質やエネルギーが消えてしまう可能性がある以外に、勝手に物質やエネルギーが生じてしまうということが起こります。現在の主流物理学では、真空のゆらぎがそのような現象として、議論されてますけどね。真空のエネルギーとかも、似た概念かもしれません。標準模型は無理やり次元拡張してるので、代数的な無理があって、そういう概念が必要になってしまうのかもしれません。ま、でも、普通の現象に対しては、可除代数というのは妥当に思います。
S7の点AとBを考え、以下のように定義します。
$${A=\alpha + a, B=\beta + b}$$
ただし、${\alpha}$と${\beta}$は、4元数的な成分で、結合性があります。例えば、
$${\alpha = a_ 1 e_1 + a_2 e_2 +a_3 e_3}$$
になります。
一方、${a}$と${b}$はそのほかの成分をまとめたものです。この部分がなければ、結合性が戻ってくるわけですが、そんなわけにはいきません。ここで余積代数が成立するとは${[A,B]=AB−BA}$でこれが結合性演算成分の要素で書ければよいということです。
AとBの間の演算は、次のようになります。
$${A B= (\alpha +a) (\beta +b)= \alpha \beta + a \beta +\alpha b +a b}$$
${\alpha}$と${\beta}$は元々結合性です。なので、${\alpha \beta}$は結合的です。また、${a}$や${b}$の基底は、${\alpha}$と${\beta}$の基底に、追加の虚数単位を乗じたものになっています(ケーリー・ディクソン構成)。そのため、${a}$や${b}$だけでの演算は結合的です。これは、8元数の積表の左上の${4\times 4}$の領域と、右下の${4\times 4}$の領域が相似形になっていること対応します。なので、残るは交差項${(\alpha b - b\alpha) + (a\alpha - \alpha a) }$の結合性を調べることになります。
いま、${\alpha-\beta=0}$となるように、${A}$と${B}$が座標変換されているとします。これが、実質的にアルティンの定理の条件に対応します。その時、交差項は次のように変形されます。
この式中で、${(\alpha b - b\alpha)}$ の項は、共通の時空基盤 ${\alpha}$ と、外部のゆらぎ ${b}$ が作る「右回り・左回りのズレ(ねじれ)」を表しています。
${a}$と${b}$の基底は8元数の対称性から、4元数の基底に${\alpha}$の虚数単位の1つを乗じたものです。具体的には、$\alpha b$ と $b \alpha$ は単なる可換な積ではなく、一方が他方の共役や符号反転を伴う関係、すなわち $\alpha b = -b \bar{\alpha}$を持っています。これを適用すると、
$${(\alpha b - b\alpha)+ (a\alpha - \alpha a) = b(\alpha +\bar{\alpha})+(\alpha +\bar{\alpha}) a}$$
になります。もともとの${\alpha}$は純虚数の4元数ですが、座標変換によって、普通の4元数です。そのため、${(\alpha +\bar{\alpha})}$は実数成分になります。これを${k_a}$とすれば、
$${(\alpha b - b\alpha) + (a\alpha - \alpha a) =k_a (a+b)}$$
になります。これは可換な演算で構成されており、明らかに非結合的ではありません。よって、${\alpha-\beta=0}$の条件下で${[A,B]}$は結合的な演算要素に還元されることが示されました。${\alpha-\beta=0}$の場合、明らかに、${||\alpha-\beta||=0}$です。つまり、${\alpha-\beta=0}$となる「線上」では、${[A,B]}$は結合的で、余積代数が成立する、となります。このとき、明らかに${||\alpha-\beta||=0}$で、これをミンコフスキー計量0の条件を時空速度空間で見たときの数式とみなすことができます。すなわち、ミンコフスキー計量0で、余積代数=量子代数が成立し、量子力学が成立する下地が得られます。
Q.E.D
