問題提起
西川式微分方程式では、微分方程式の学習で生じる次の3つの疑問を考察します。(疑問1)一般解というのはどういう理由で導入されるのか?
(疑問2)一般解以外の解は存在しないのか?
(疑問3)一般解をどのように選択すればよいのか?
これらの疑問を解消しない限り、解法を暗記するという学習法から脱却できません。きちんとした理解に達しない限り、シュレディンガーが水素原子の電子軌導の計算に球面調和関数やルジャンドル陪関数を用いた理由は永遠に理解できないでしょう。それは20世紀半ばの科学技術に僕たちは追いつけないというみじめな敗北を意味します。それでよいわけないですよね。
簡単な例からスタートし、僕らが微分方程式に対して抱いている漠然とした疑問を、具体的に検証したいと思います。このテキストの目的は、微分方程式の解法の意味を理解するものであって、微分方程式の解法をノウハウとして学ぶためのものではありません。僕たちが落ちこぼれた原因を解消するのが目的です。ですので、まずは、落ちこぼれた原因を整理し、問題点を共有したいと思います。そのために、普通は検討しないような別解を繰り返し紹介します。
例題1
\begin{equation}\frac{d^2}{dx^2} f(x)=-a^2 f(x)
\end{equation}
解法1-1(通常の教科書的な解法)
一般解 を$f(x)=C \sin{\omega x}$として、代入すると、\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=C \frac{d^2}{dx^2} \sin{\omega x} =-C \omega^2 \sin{\omega x}=-a^2 C \sin{\omega x}
\end{equation}
$-\omega^2=-a^2$となり、
$\omega =\pm a$。よって、
\begin{equation}
f(x)=\pm C \sin{ax}
\end{equation}
あとは境界条件によって係数$C$を決定します。係数$C$だけを残した形まで決定された解を基本解 と呼びます。$C$の前に$\pm$がありますが、$C$の符号の選択の問題ととらえれば、$\pm$は無視して構いません。
ま、これでも良いんですが、最初に$f(x)=C \sin{\omega x}$と置く理由が全くわかりません。
例えば$f(x)=C \cos{\omega x}$でも良いんじゃないか、と思うわけです。というわけで、次は、$f(x)=C \cos{\omega x}$を一般解として採用してみましょう。
解法1-2(cosineを使った解法)
一般解を$f(x)=C \cos{\omega x}$として、代入すると、\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=C \frac{d^2}{dx^2} \cos{\omega x}=-C \omega^2 \cos{\omega x}=-a^2 C \cos{\omega x}
\end{equation}
$-\omega^2=-a^2$となり、
$\omega=\pm a$。よって、
\begin{equation}
f(x)=\pm C \cos{ax}
\end{equation}
で、同じように解けました。この解法は、普通の教科書でも紹介されているかもしれません。解法1-1とは、明らかに解が違います。どちらが解として正しいのでしょう?
結論を言えば、どちらも解である、ということです。通常は境界条件が設定されていて、Cを決めたり、sineかcosineかを選択します。例えば、境界条件として、$f(x)=0$というのがあれば、$f(x)=\pm C \cos{ax}$は解になることができず、$f(x)=\pm C \sin{ax}$と定まります。このような結果オーライ的な説明は、数学としては違和感があります。ただ、この2つの解で万事うまくゆくなら、それでよいのかもしれません。しかしながら、解法はこれだけではありません。
解法1-3
一般解を$f(x)=Ce^{i\omega x}$として、代入すると 、\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=C \frac{d^2}{dx^2} e^{i\omega x}=-\omega^2 C e^{i\omega x}=-a^2 C e^{i\omega x}
\end{equation}
$-\omega^2=-a^2$となり、
$\omega=\pm a$
よって、
\begin{equation}
f(x)=C e^{\pm iax}
\end{equation}
またまた別の解が出てきてしまいました。しかも今度は、$\pm$という記号があって、この$\pm$は係数の符号として片付けることができません。ですので、解が2つ出てきたことになります。先ほどと同様に$f(0)=1$が境界条件の場合を検討すると、$f(0)=C , C=1$となります。ただし、$f(x)=C e^{- iax}$か、$f(x)=C e^{ iax}$か決まりませんね。どちらも解として採用して良さそうですが、解法1-2の$f(x)=\cos{ax}$とは違いますね。
解法1-1、1-2、1-3を総括すると、異なる一般解を用いて、同じ方程式を解くと、異なる解が得られるということになります。ですから、一般解はきちんと選択されなければならないし、天下り式に一般解を受け入れてうまく解けたとしても、他の一般解における別の解の存在を検討しなければ、ちゃんと解けたことにならない、ということがわかります。まさしく、(疑問2:般解以外の解は存在しないのか?)は当然であり、天下り式の一般解には納得いくはずもなく、他の解の可能性を排除できていないという気持ち悪さを感じないとおかしい、ということです。後でもう少し紹介しますが、この例題1に対して利用できる一般解はまだまだ存在します。その話をする前に、別パターンの例題を紹介します。
例題2
\begin{equation}\frac{d^2}{dx^2} f(x)=a^2 f(x)
\end{equation}
例題1と似ていますが、右辺のマイナスが取れています。それが故に、ちょっと解法が異なってきます。
解法2-1(教科書的な解法)
一般解を$f(x)=C e^{-\tau x}$として、代入すると、\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=C \frac{d^2}{dx^2} e^{-\tau x}=\tau^2 C e^{-\tau x}=a^2 C e^{-\tau x}
\end{equation}
$\tau^2=a^2$となり、
$\tau=\pm a$なので、
\begin{equation}
f(x)=C e^{\pm ax}
\end{equation}
今度は指数関数を代入することで、指数関数の解が得られました。よくある境界条件は、$f(0)=1$かつ$f(\infty)=0$で、$f(x)=e^{-ax}$と決定されます。
普通の教科書では、これで終わりですが、例によって、別の一般解を使ってみます。
解法2-2
一般解を$f(x)=Ce^{i \omega x}$として、代入すると、\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=C \frac{d^2}{dx^2} e^{i\omega x}=-\omega ^2 Ce^{i\omega x}=a^2 Ce^{i\omega x}
\end{equation}
$-\omega ^2=a^2$となり、
$\omega =\pm ia$なので、
\begin{equation}
f(x)=Ce^{\mp ax}
\end{equation}
解法1-3と同じ一般解を用いました。普通は、こんな一般解は使いませんが、それでもこのようにきちんと解けます。しかも今度は、解法2-1と同じ解が得られました。(疑問3:一般解をどのように選択すればよいのか?)は結構適当で良い、という可能性が出てきました。これができるなら、逆も可能かもしれません。ということで、解法1-1と同じ一般解でトライしてみます。
解法2-3
一般解を$f(x)=C \sin{\omega x}$として、代入すると、\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=C \frac{d^2}{dx^2} \sin{\omega x}=-C\omega^2 \sin{\omega x}=a^2 C \sin{\omega x}
\end{equation}
$-\omega ^2=a^2$となり、
$\omega =\pm ia$。よって、
\begin{equation}
f(x)=\pm C \sin{iax}
\end{equation}
sineの中に、虚数単位があるというわけのわからない関数が出てきました。この関数は計算できないことはないのですが、使っているのを見たことありません。ひらめきによって、$\cos{iax}$を考えて、オイラーの公式を適用してみます。
\begin{equation}
\cos{iax}+i \sin{iax}=e^{ax}\label{Euler}
\end{equation}
となり、$\sin{iax}$は通常の指数関数をオイラーの公式でむりやり展開したときの虚数成分であることがわかります 。さらに、$\cos{iax}-i \sin{iax}=e^{-ax}$なので、これとの差を考えると、$\sin{iax}=\frac{1}{i}\frac{e^{ax}-e^{-1x}}{2}$であり、これはすなわち、$-i\sinh{ax}$であるとわかります。
($\ref{Euler}$)式の係数に純虚数を考えれば、解法2-1にあるような指数関数と整合していないことはない、ということです。
では逆に、解法2-1で用いた一般解で例題1を解いてみましょう。
解法1-4
一般解を$f(x)=Ce^{-\tau x}$として、代入すると、\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=C \frac{d^2}{dx^2} e^{-\tau x}= C \tau^2 e^{-\tau x}=-a^2 Ce^{-\tau x}
\end{equation}
$\tau^2=-a^2$となり、
$\tau=\pm a$。
よって、
\begin{equation}
f(x)=Ce^{\pm ax}
\end{equation}
となり、解法1-3と同じ解がでてきました。
ここから、一般解というのは、かなり緩い制約しかない、ということがわかります。ただ、使用する一般解によって、解に違いが出てきていますので、どの一般解を使うのか、ということが問題になってきます。
次は、例題1についてこれまで出てきた解を統一的に理解するということを試みますが、その前に、もう一つだけ別の解法を考えます。
解法1-5
一般解を$f(x)=C \sinh{bx}$とする。$\sinh{bx}=\frac{e^{bx}-e^{-bx}}{2}$なので、\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=C \frac{d^2}{dx^2} \frac{e^{bx}-e^{-bx}}{2}=b^2 C \frac{e^{bx}-e^{-bx}}{2}=-a^2 C \frac{e^{bx}-e^{-bx}}{2}
\end{equation}
$b^2=-a^2$となり、
$b=\pm ia$。
よって、
\begin{equation}
f(x)=C \frac{e^{\pm iax}-e^{\mp iax}}{2}=-Ci \sin{\pm ax}
\end{equation}
最後は、オイラーの公式を使って、sineに書き直しました。Cに純虚数を考えれば、解法1-1と同じです。一般解として$f(x)=C \cosh{bx}$から出発すると、$f(x)=C \cos{ax}$が得られます。
こうしてみると、一般解にはいろんなものが使えるということがわかります。でも、どんなものでOKかというとそういうわけではありません。例えば、$C\tan{\omega x}$とか$ C\log{\tau x}$を一般解として使ってみましょう。
解法1-6
例題1において、一般解を$f(x)=C\tan{\omega x}$とする。\begin{equation}
\frac{d}{dx}f(x)=C\frac{d}{dx}\tan{\omega x}=C\omega\frac{1}{\cos^2{\omega x}}
\end{equation}
\begin{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}f(x)=C\omega\frac{d}{dx}\frac{1}{\cos^2{\omega x}}=C\omega^2\frac{-2\sin{\omega x}}{\cos^3{\omega x}}=-a^2C\frac{\sin{\omega x}}{\cos{\omega x}}
\end{equation}
なので、$\omega^2\frac{2}{\cos^2{\omega x}}=a^2$。
左辺に$x$が残っているので、微分方程式を常に満たす関数は、$f(x)=C\tan{\omega x}$の形式では表せない。
解法1-7
例題1において、一般解を$f(x)=\ C\log{\tau x}$とする。\begin{equation}
\frac{d}{dx}f(x)=C\frac{d}{dx}\ \log{\tau x}=C\tau\frac{1}{\tau x}
\end{equation}
\begin{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}f(x)=C\tau\frac{d}{dx}\frac{1}{\tau x}=C\frac{-1}{x^2}=-a^2C\log{\tau x}
\end{equation}
なので、$\frac{1}{x^2\log{\tau x}}=a^2$。
左辺に$x$が残っているので、微分方程式を常に満たす関数は、$f(x)=\ C\log{\tau x}$の形式では表せない。
このように、多くの関数が一般解として使える一方、一般解に使えない関数があることが確認できました。一般解として使える関数にはどのような条件があるのでしょう。また、微分方程式の解として様々なものが得られました。実用上は与えられた境界条件を満たす解を選択するわけですが、結果オーライ・ご都合主義な感じがします。本当に解けているのか不安になります。
解をまとめる
さて、解法1-1~5において、$C \sin{ax}$、$C \cos{ax}$、$Ce^{\pm iax}$という解が得られました。さらに、$C \sin{ax}=\frac{C}{i} \frac{e^{iax}-e^{-iax}}{2}$であることがわかっています。つまり、例題1-5の解は例題1-3の解($Ce^{\pm iax}$)の和であって、係数Cが虚数であるということです。
同様にこれまでに得られたすべての解が$Ce^{±iax}$の和として表すことができることに気づくかもしません。これらから、係数Cとして複素数を許し、$C_1 e^{iax}+C_2 e^{-iax}$とすれば、これまで出てきた解をすべて包括するような気がします。しかしながら、$C_1 e^{iax}$と$C_2 e^{-iax}$の足し算が許されるかどうか、は自明ではないような気がします。また、係数$C$が複素数でも大丈夫かというのは確かめておかないといけない気がします。まず、簡単な後者からやっつけておきましょう。
$C=c+id$とすると、$Ce^iax=ce^iax+id e^iax$です。これを元々の微分方程式に代入します。同様にこれまでに得られたすべての解が$Ce^{±iax}$の和として表すことができることに気づくかもしません。これらから、係数Cとして複素数を許し、$C_1 e^{iax}+C_2 e^{-iax}$とすれば、これまで出てきた解をすべて包括するような気がします。しかしながら、$C_1 e^{iax}$と$C_2 e^{-iax}$の足し算が許されるかどうか、は自明ではないような気がします。また、係数$C$が複素数でも大丈夫かというのは確かめておかないといけない気がします。まず、簡単な後者からやっつけておきましょう。
\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=\frac{d^2}{dx^2} \{ce^iax+id e^iax \}\\
=-ca^2 e^iax-ida^2 e^iax=-a^2 (ce^iax+id e^iax )=-a^2 f(x)
\end{equation}
となり、例題1の微分方程式を自動的に満たします。
次に、個別の解の和が解になれるかどうかを調べます。
$f(x)=C_1 e^iax+C_2 e^{-iax}$とすれば、
\begin{equation}
\frac{d^2}{dx^2} f(x)=\frac{d^2}{dx^2} \{C_1 e^iax+C_2 e^{-iax} \}=-C_1 a^2 e^iax-C_2 a^2 e^(-iax)=-a^2 (C_1 e^iax+C_2 e^{-iax} )=-a^2 f(x)
\end{equation}
となり、例題1の微分方程式を自動的に満たします。ですから、$f(x)=C_1 e^{iax}+C_2 e^{-iax}$とすれば、これまで出てきた解をすべて包括することができます。だから一般解としては、$f(x)=C_1 e^{i\omega x}+C_2 e^{-i\omega x}$を使うべきかもしれないという予想がたちます。
ここに至り、(疑問2:一般解以外の解は存在しないのか?)はますます深刻です。調べれば調べるほど、似ているけれどちょっと違う解が見つかるということは、例題1を$f(x)=C \sin{\omega x}$として解くのでは不足であると結論されます。そして、すべての解を調べつくしているのかどうか疑わしくなります。さらに、(疑問3:一般解をどのように選択すればよいのか?)に対する演繹的な答えは絶望的に見えてきます。
一次結合と線形微分方程式の説明
例題1-3や例題1-4では、$f\left(x\right)Ce^{\pm i a x}$が解として得られており、$f\left(x\right)=C_1e^{iax}+C_2e^{-iax}$に近いですが、得られた二つの解の和が解として成立するかどうかについて、明示的な指針はありません。しかしながら、線形の微分方程式の場合、すべての基本解の一次結合も解として有効である、というのが常識とされています。
こういう言い方は因果関係がおかしくて、正しくは、基本解の一次結合が解として有効であるような微分方程式を線形微分方程式と呼ぶのです 。一次結合というのは、線形和とも呼ばれ、二つ以上の数式やベクトルに対して定義されます。例えば、数式$f_1\left(x\right)とf_2\left(x\right)$があったとして、一次結合というのは、係数$C_1$と$C_2$を使って、$C_1f_1\left(x\right)+C_2f_2\left(x\right)$のようにあらわされた数式のことを言います。
今、基本解として、$f_1\left(x\right)とf_2\left(x\right)$があったとして、例題1の微分方程式$\frac{d^2}{{dx}^2}f\left(x\right)=-a^2f\left(x\right)$をどちらも満たすとします。であるなら、
\begin{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}f_1\left(x\right)=-a^2f_1\left(x\right)かつ\frac{d^2}{{dx}^2}f_2\left(x\right)=-a^2f_2\left(x\right)
\end{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}f_1\left(x\right)=-a^2f_1\left(x\right)かつ\frac{d^2}{{dx}^2}f_2\left(x\right)=-a^2f_2\left(x\right)
\end{equation}
が成立します。それぞれ係数$C_1$と$C_2$をかけてやって、
\begin{equation}\frac{d^2}{{dx}^2}C_1f_1\left(x\right)=-a^2C_1f_1\left(x\right)\end{equation}
\begin{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}C_2f_2\left(x\right)=-a^2{C_2f}_2\left(x\right)
\end{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}C_2f_2\left(x\right)=-a^2{C_2f}_2\left(x\right)
\end{equation}
が成立するのは、当たり前だし、二つの式を足してやって、
\begin{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}C_1f_1\left(x\right)+\frac{d^2}{{dx}^2}C_2f_2\left(x\right)=-a^2C_1f_1\left(x\right)-a^2{C_2f}_2\left(x\right)
\end{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}C_1f_1\left(x\right)+\frac{d^2}{{dx}^2}C_2f_2\left(x\right)=-a^2C_1f_1\left(x\right)-a^2{C_2f}_2\left(x\right)
\end{equation}
が成立するのも当たり前です。少し式を整理すれば、
\begin{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}\left\{C_1f_1\left(x\right)+C_2f_2\left(x\right)\right\}=-a^2\left\{C_1f_1\left(x\right)+{C_2f}_2\left(x\right)\right\}
\end{equation}
\frac{d^2}{{dx}^2}\left\{C_1f_1\left(x\right)+C_2f_2\left(x\right)\right\}=-a^2\left\{C_1f_1\left(x\right)+{C_2f}_2\left(x\right)\right\}
\end{equation}
つまり、$C_1 f_1\left(x\right)+C_2 f_2\left(x\right)が\frac{d^2}{{dx}^2}f\left(x\right)=-a^2f\left(x\right)$を満たしているという式になります。すべての微分方程式において、このように基本解の一次結合(線形和)が解となるわけではありません。線形和が解になるかどうかは、その性質は元の微分方程式の形で決まっており、基本解の一次結合が自動的に解となるような微分方程式を線形微分方程式と呼びます。
逆に、微分方程式が線形かどうかは、2つの基本解を仮定してやって、微分方程式に代入し、和を計算してやればわかります。例えば、$\frac{d}{dx}f\left(x\right)={f\left(x\right)}^2$を考えてやると、
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f_1\left(x\right)={f_1\left(x\right)}^2
\end{equation}
\frac{d}{dx}f_1\left(x\right)={f_1\left(x\right)}^2
\end{equation}
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f_2\left(x\right)={f_2\left(x\right)}^2
\end{equation}
\frac{d}{dx}f_2\left(x\right)={f_2\left(x\right)}^2
\end{equation}
が成り立っているとして、両辺の和を取ります。
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f_1\left(x\right)+\frac{d}{dx}f_2\left(x\right)={f_1\left(x\right)}^2+{f_2\left(x\right)}^2
\end{equation}
\frac{d}{dx}f_1\left(x\right)+\frac{d}{dx}f_2\left(x\right)={f_1\left(x\right)}^2+{f_2\left(x\right)}^2
\end{equation}
となります。右辺はどうあがいても、$f_1\left(x\right)+f_2\left(x\right)$だけで表すことができません。ですので、$\frac{d}{dx}f\left(x\right)={f\left(x\right)}^2$は線形微分方程式ではない=非線形微分方程式である、と結論できます。ある微分方程式が線形か非線形かはパッと見ではわからないことがあります。つまり、式を見ただけで線形・非線形を判断するのは危険ということです。
非同次の線形微分方程式
線形微分方程式では、基本解が複数得られた場合、基本解の線形和がすべて解の候補になります。線形和の場合、それぞれの項に係数を付けることができるので、最終的な解を求めるときは、係数を決定する、という作業が必要になります。一般に、線形和の係数を決定するという作業は、境界条件を参考にしながら行います。
これまで議論してきた微分方程式において、$f(x)=0$は常に成り立つことはすぐにわかります。だから、$f(x)=0$は自明な解として問題にしませんでした。しかしながら、世の中には、$f(x)=0$が解になり得ない微分方程式も存在します。$f(x)=0$が解になるかどうかによって解法が少し違ってくるので、それぞれに名前を付けて区別します。$f(x)=0$が解になるタイプの微分方程式を「同次」と呼び、$f(x)=0$が解にならないタイプの微分方程式を「非同次」と呼びます。当然、「同次」より「非同次」の方が難しくなります。
前節で出てきた線形/非線形の定義によれば、ほとんどの「非同次」な微分方程式は「非線形」ということになってしまいますが、「線形」の定義をすこし拡張し、非同次の線形微分方程式の範囲をすこし増やすのが通常です。それは非同次微分方程式の解法に由来します。まず、次のような非同次な微分方程式を考えます。
\begin{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n \frac{d^n}{dx^n} f(x) =q(x)
\end{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n \frac{d^n}{dx^n} f(x) =q(x)
\end{equation}
のように、$f(x)$に関する部分とそれ以外に式を分けます。左辺は十分に一般化されていませんが、通常はこの程度の一般化で十分なはずです。この微分方程式の解を複数考えて、足し合わせると、左辺が$2q(x)$になるので、元の方程式を満たさないことがわかります。つまり、前節の定義では「非線形」です。
しかしながら、右辺を0として、
\begin{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n \frac{d^n}{dx^n} f(x)=0
\end{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n \frac{d^n}{dx^n} f(x)=0
\end{equation}
と置くと、これは「線形」です。微分方程式において、$f(x)$に関する項とそうでない項をそれぞれ左右にまとめあげて、$f(x)$に関する項を0とした微分方程式が線形であるとき、特別に「非同次線形微分方程式」と呼びます。というのも、非同次線形微分方程式は線形微分方程式の応用で解くことができるからです。
非同次線形微分方程式を解く場合には、まず、無理やりにでも1個だけ解を見つけます。例えば、$q(x)$が多項式だとしめたものです。
微分の次数の上限は$N$であることを鑑み$f(x)=\sum_{n=0}^{N} a_n x^n$と置くと、ちょっとした計算で左辺が次のように変形できます。
\begin{equation}
\sum_{m=0}^{N} k_m \sum_{n=m}^{N} a_n \frac{n!}{(n-m)!} x^{n-m}
\end{equation}
\sum_{m=0}^{N} k_m \sum_{n=m}^{N} a_n \frac{n!}{(n-m)!} x^{n-m}
\end{equation}
これと$q(x)$とを比較すれば、$a_n$を決定できます。こうして得られた解を$f_0(x)$とします。この$f_0(x)$は言わば「割り算のあまり」のようなものです。
非同次線形微分方程式の線形部分の解は
\begin{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n \frac{d^n}{dx^n} f(x)=0\end{equation}
\sum_{n=0}^{N} k_n \frac{d^n}{dx^n} f(x)=0\end{equation}
を満たすので、いくら足しても方程式は変わりません。だから、余分に$f_0(x)$を足してやると自動的に$\sum_{n=0}^{N} k_n \frac{d^n}{dx^n} f(x)=q(x)$を満たすようになります。すなわち、大部分の解は線形部分の解で、それらに「あまり」を足してあげるわけです。
例題3
具体的に非同次線形微分方程式を提示し、調べてみましょう。\begin{equation}
\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)+3x=0
\end{equation}
今までの例題に対して余計な3xがついている、というパターンです。これがなければ、これまでと同様、適当に一般解を選べば、問題なく解けます。
解法3-1
直感によっ$f(x)$が多項式であると考えて、せいぜい2次くらいだろうということで、$f\left(x\right)=ax^2+bx+c$とする。これを元の微分方程式に代入してみる。\begin{equation}
\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)+3x=2ax+b-5ax^2-5bx-5c+3x=0
\end{equation}
すべての$x$について成立しなければならないので、
$-5a=0,\ 2a-5b+3=0,\ b-5c=0$となる。すなわち、
$a=0,\ b=3/5,\ 5c=3/25$で、$f\left(x\right)=\frac{3}{5}x+\frac{3}{25}$は一つの解である。確かにこれは、例題3の微分方程式を満たす。これを特別解と呼ぶ。
一方、これまでの解法と同様に$\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)=0$には他の解がある。もし、$\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)=0$が成り立つ解があれば、これを先の特殊解に足したものも解として使える。なので、$\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)=0$を解くことにしよう。
一般解を$f\left(x\right)=Ce^{\tau x}$として、代入すると、
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)=\tau Ce^{\tau x}-5Ce^{\tau x}=\left(\tau-5\right)\ Ce^{\tau x}=0
\end{equation}
$\tau=5$となり、
よって、
\begin{equation}f\left(x\right)=Ce^{5x}\end{equation}
このようにして求めた解は、同次解と呼ばれている。
同次解と特殊解の和が解となるので、最終的に、
\begin{equation}
f\left(x\right)=Ce^{5x}+\frac{3}{5}x+\frac{3}{25}
\end{equation}
が得られる。
この解法におけるポイントは、$\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)+3x=0$を
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)=-3x
\end{equation}
\begin{equation}
\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)=0
\end{equation}
の二つの方程式の和と考える点にあります。元々の方程式は線形なので、解をいくら足しても解として成立します。ただし、上側の式には$-3x$だけ余りがあります。なので、あまりの部分を別枠で計算することにします。それが$f\left(x\right)=\frac{3}{5}x+\frac{3}{25}$です。この解は絶対必要です。さらに下側の式から出てくる同次解をオプション的に付け足してもかまいません。オプションを付け足すかどうかは境界条件で決まります。
例題3のように「余り」のある場合、特殊解という「余り」の条件を満たす解を足してやることで、うまく解が表せる、というのは線形微分方程式の特性を利用しています。ただ、ここに至って特殊解の求め方に、「直感」が導入されており、またしても天下り的な要素が出てきてしまいました。この直感の部分はいかんともしがたいものです。さらに、直感で解かれた特殊解が唯一無二のものかどうかははっきりしません。また、特殊解と同次解の和以外のパターンの解は検討していませんから、得られた最終解がすべてのパターンを網羅しているかどうかは、不明なままです。つまり、本当に解けているのかどうかわからない、という状態です。
解法3-2
通常の教科書を見ると、同次解を求めるために特性方程式というものを使うことがあります。特性方程式とは微分方程式に含まれる任意の次数の微分を対応する対応する次数のn乗の記号に割り当てるテクニックです。特別解の求め方は解法3-1と同じとする。
同次解$\frac{d}{dx}f\left(x\right)-5f\left(x\right)=0$については、対応する特性方程式を考える。すなわち、$\frac{d}{dx}f\left(x\right)$を$t$の1乗、$f\left(x\right)$を$t$の0乗で置き換える。すると、次式を得る。
\begin{equation}t-5=0\end{equation}
これを解いて、$t=5$から
\begin{equation}f\left(x\right)=Ce^{5x}\end{equation}
以下略
実は、特性方程式というのは、$f\left(x\right)$で割り算してから、$\frac{d}{dx}$を$t$、$\frac{d^2}{{dx}^2}$を$t^2$というように機械的に置き換えてやって、多項式を作成することで、半自動的に微分方程式を解くテクニックです。このテクニックの根底にあるのは、一般解が$f\left(x\right)=Ce^{tx}$であることが前提ということです。$f\left(x\right)=Ce^{tx}$であると考えれば、一次微分や二次微分で、$t$や$t^2$が出てきます。途中で$Ce^{tx}$を割り算するというのがわかっているので、最初から割り算しておこう、という手抜きです。先に手抜きを教わってしまうので、わけがわからなくなるという理屈です。特性方程式というのは労力を端折るためだけのものなので、特にこだわる必要はないと、僕は思います 。
特性方程式にも学ぶ点があります。微分方程式を機械的に特性方程式に変換してよいということは、一般解を$f\left(x\right)=Ce^{tx}$に決め打ちしてよい、ということに他なりません。これまで見てきたように、普段は$f\left(x\right)=C\ \sin{\omega x}$ を一般解に用いるような場合であっても、$f\left(x\right)=Ce^{tx}$を一般解にして解くことができます。なので、$f\left(x\right)=Ce^{tx}$を一般解にもちいることは、一般性を失わない、ということだと推測できます。
この章のまとめ
ということで、わかったことは、一般解は普通$f\left(x\right)=Ce^{tx}$を使うとよい、ということです。その他の一般解で解いたとしても結果は同じになるのです。$t$は複素数であってもかまいませんから、$f\left(x\right)=Ce^{i\omega x}$を一般解に使ってもOKです。ただし、この場合、特性方程式は虚数単位を含むことになり、解き方は変わりませんが、ちょっと違和感があります。ただ、答えは同じです。
特性方程式に見られるように、実のところ、一般解を天下り式に受け入れると、基本解はほとんど自動的に求まります。ですので、微分方程式を解くという作業の大半は、境界条件を満たすように、基本解の係数を決定する、という作業が占めます。また、解法2-3や解法1-4で示したように、一般解が少々雑でも、基本解をちゃんと求めることができます。だから、少々強引でも天下り式に一般解を導入しても結果に影響はないんだ、ということで、一般解に関する議論を避けているような気がします。
それでもやっぱり、解法1-1と解法1-2は排他的な解であり、片方だけしか検討しないなら、すべての可能性を考慮したことにはなりません。そういうことが実際にあるのだから、複数の解法をいくら示しても、別の解がある可能性を払しょくできません。やっぱり解けていないんじゃないか、という気持ち悪さが残ります。
まずは、一般解をこのように決め打ちしてよい理由を説明したいと思いますが、そのためには、線形微分方程式の解き方の「フルバージョン」を示す必要があります。フルバージョンの説明には、実はフーリエ級数などの級数展開の話をしなくてはいけません。